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20 春に君の隣を歩く3

「ぁっ……拓真ぁ」  名前を呼んだだけなのに、どうしてこんなにも甘ったるい声になるのか自分でも分からない。ただ初めてしたときにことを思い出すだけで身体中が熱くなっておかしくなりそうだ。  訳が分からないまま終わってしまった初めては、とても幸せで脳まで蕩けてしまいそうだった。自分を求めて貰えたのが、こんな傷だらけの身体でも欲情してくれたのが、泣きそうになるくらい嬉しくてなにをされても気持ちよかった。  興奮が一番の敵だと分かっていても、身体を熱くしてしまった。  またあの瞬間がやってくるんだと思うだけで、あの日よりもずっと興奮してしまう。 「感じてるときの悠人の声、やばい……でも今日は俺に好きにさせてね。すっげー気持ちよくするから」  薄い肌を何度も舐めながらいくつものキスマークを白い肌に落とす。きつく吸われるたびに、甘い声が零れ落ちる。  始まったばかりのセックスなのに、こんなにも感じてしまっていいのだろうか。中西の手が這うだけで気持ちよくてそこから熱くなる。もう心臓を気にしなくていい身体は、彼から与えられる心地よさにどんどんと溺れていく。そして心地よさを現すようにあそこがどんどんと角度を変え大きくなる。 「どこもかしこも敏感すぎ。キスするだけでここを大きくしてくれるの、嬉しい」  肌をまさぐっていた大きな手が、躊躇うことなく悠人のそこに触れる。 「ひっ!」 「前も思ったけど、ここ凄く敏感だよね……また気持ちよくしていい?」 「ぁ……っ! ダメ拓真それ!」  返事をする間もなく中西がそこをペロリと舐めた。ドッと熱が集中していく。 「今日は悠人の『ダメ』を聞く余裕ないかも……でも気持ちよくするから俺の好きにやらせて」  大きくなった先端をねっとりと舐め上げてから中西はそれを咥えた。 「ぁぁっ……それっ!」  自分で弄ることがないそこを口の中でたっぷりと可愛がられ、悠人はあの日と同じ薄いグリーン色のシーツを握りしめた。  気持ちいい。吸いながら頭を動かされると脳まで溶けてしまいそうになり、自分を保つように何度も激しく首を振った。 「たくまぁ……もう達く、いっちゃう!!」  気持ちよすぎてすぐにでも出してしまいたくなる。自慰すらあまりしたことのないそこは敏感すぎて弱音を吐かずにはいられないのに、中西は嬉しそうに動きを激しくしていく。めちゃくちゃにシーツを握りしめ乱れる悠人を見ながら、中西が可愛がるのを中断した。 「え?」  あと少しで達けると思っていたのにと、少し残念そうな声が漏れてしまう。 「ちょっと待ってて。すぐに気持ちよくするから」  ベッドを降り勉強机のひきだしに手を伸ばした中西は、その中から透明のボトルを取り出した。蓋を開け、トロリとした液体を大きな手に零すと、もうすぐ爆発しそうなそれをまた咥えた。 「ぁっ……たくまぁぁ」  さっきと同じようにきつく吸われて腰が跳ねてしまう。腰を押さえつけられ僅かな隙間だけで腰をもじつかせていると、大きな手が臀部の割れ目に沿って指を伸ばしてきた。 「そこっ……ぃっ」  二人が繋がるための場所に液体をまとわりつかせた指が潜り込んでくる。けれど異物感はあっても初めての時のような痛みはない。後ろに意識を集中させないようそこをきつく吸われるともうダメだった。我慢のきかない身体はすぐに限界を迎えた。 「ぁ! ……んんっ、んん!」  気持ちいい口の中に蜜を吐き出していき、意図せず中の指を締め付けた。  ゴクンと嚥下した中西が力を失ったそこから顔を離す。 「すっげー可愛かった……でもまだ終わりじゃないから。次はこっちな」  ぬめりを纏った指が身体の中に液体を擦りつけるように動き始める。 「いっ……ぁぁっなにそれ……」  濡れた音に怯えれば、中西がボトルを見せてくれた。けれど涙でにじんだ視界では読み取ることができない。 「潤滑剤だから心配しなくていいよ。ここに俺のを挿れても痛くないようにするものだから、安心して」  指に着いていたぬめりを擦りつけ、抜けていく。そしてまたたっぷりと液体を纏わせて入ってきては繰り返しその動きをした。  単調に繰り返す動きに、悠人は唇を噛んで耐えた。二人が繋がるための大切な準備なら不快感が増しても嫌だとは言えない。  クチュクチュと音が立ち、指に慣れて力が抜けていくと、今度は二本に増えてそこにたっぷりとぬめりを塗り込む。  自然と眉間に皺が寄り、僅かに開いた唇から細く息を吐き出した。  これが気持ちいいかよく分からない。けれど、一つになって心が満たされたあの瞬間を味わいたくて、中西のすることに否を唱えないよう耐えた。バラバラに動く指が中を広げながらしきりに内壁を擦るような動きをしてもぐっと堪えたが、中指がある場所を擦ったとき、ただ静かに受け入れていた身体がビクンと跳ねた。 「なっ!」  ピクッと力なく横たわっていたそこにまた熱が集まる。 「ここね、覚えた。安心して。男だったら誰でもここ弄られたら気持ちよくなるから……心配しないでいっぱい感じて」  大きく足が開くように片足を肩にかけた中西が、僅かに膨らんだそこを指の腹で押すと、細い身体が意味をなさない声を上げながらベッドの上で跳ねていく。あまりにも強烈な快感に見開いたままの目からポロリと涙が零れ落ちる。  こんなの知らない。いや、原理は分かっている。けれど、こんなにまで強い快楽だなんて知りもしなかった。頭の中が真っ白になってなにも考えられなくなる。  トントンとノックのように叩かれるだけでギュッと指を締め付けては腰を跳ねさせた。 「ぁぁっ……いっ」 「泣かなくていいから……そんなに気持ちいいの?」  返事ができない。涙の跡を舌が舐め頬に口づけも反応できないほど、そこからやってくる快感が凄すぎておかしくなりそうだ。なのに口から零れるのは甘い声だけ。  何でこんなにも気持ちいいのか分からないまま、中西の指に翻弄されていく。  いつの間にか指が三本に増えていることも、反対の手がそこを扱いているのも分からないまま、煽られていく。ぐちゃぐちゃと濡れた音が立つほどたっぷりと液体を塗り込んでからようやく指が抜けた。どれだけ指を咥えていたが分からないが、そこは閉じることなくヒクヒクと蠢いてはじっと見つめる中西を無意識に煽る。 「悠人が可愛すぎてもう我慢の限界」  足を下ろすと中西が慌てて服を脱ぎ落としていく。そして産まれたままの姿になってまた悠人の足を肩に掲げた。 「ごめん、悠人の感じてる顔見ながらしたいから、少し苦しいけどこのままする」  トロリとした液体を充分に堅くなったそこに塗ってから、ゆっくりと中西が挿ってきた。 「ぁ……んんっ」  指で散々慣らされた後だから痛みはないが、指と比べものにならない圧迫感が悠人を苛んだ。あんなにも快楽に襲われて真っ白になっていた頭が苦しいと訴える。ギュッと目を閉じそれに耐え、さっきと同じように息を吐き出していく。  ゆっくりと、けれど着実に奥へと挿ってくる。  あの時はこんな苦しくなかったのになぜと思いながら、またシーツを掴んで気を反らす。深い部分まで飲み込んでやっと中西は動きを止めた。 「ごめんな悠人、苦しいよな……でもすぐに気持ちよくするから。あとちょっとだけ耐えて」 「だ……い、じょうぶ、だから……」 「健気すぎだろ……もうちょっと中が俺のに慣れたら、めちゃくちゃ気持ちよくするから、ちょっとだけ我慢な」 「んっ……たくまの、すきにして……いいから」  息を吐き出せば少しは圧迫感から逃れられる。無意識に入った力がゆっくりと抜けたのを感じて、中西がずるりと抜け、またゆっくりと挿ることを繰り返し、抵抗がなくなったのを確かめてから、悠人を狂わせた場所を狙って腰を動かした。 「ぇっ……ぁぁぁぁっ!」 「ここ、だろ……すっげー締め付けてくる……やばすぎ」  もう一度狙いを定め腰を動かせばまたギュッと中を締め付けながら悠人は甘い声を零した。 「なに……ぁぁっ……たくまっ……たくまぁぁっ!」 「このまま、感じててっ」  ズンッズンッと突かれるたびに、あの頭を真っ白にさせる痺れにも似た感覚が駆け抜けていく。そのたびに悠人は何を口にしているのか分からない、甘い声を上げ続けた。  前回は繋がったことにものすごく悦びを感じていたが、今回は違う。本当に肉の悦びというにふさわしい狂いそうな感覚が全身を駆け巡り、その中で溺れるかのような錯覚に陥る。必死で助けを求めるように手を伸ばせば、いつも甘い気持ちにさせる大きな手が握ってくれた。それでも狂うような快感が終わらない。  これがセックスで得られる快楽だとしたら、本当になにも考えられないくらい狂ってしまう。これを知った後に自分がどうなるのか怖くて、ポロポロと涙が溢れてくる。 「たくまぁぁぁ……ぁんっへん、変になっちゃう!」 「これ、いいの? ねぇ悠人教えて……これ気持ちいい?」 「ぁぁぁっもうだめ! こわいっ」  泣きながら、でも気持ちよすぎてもっと味わいたい。 「くそっ、もっと悦くしようと思ったのに……ごめんな、ちょっと待ってて」 「ゃっ……やめないでぇぇぇ」 「ちょっとだけだから我慢して」  抜けていくそれを引き留めようとギュッと締め付けても、ぬめりが邪魔をして全部抜けてしまった。それが悲しくてまた涙が溢れては、入学式のために綺麗に整えた髪を濡らしていく。  開いた足の間で、中西が何かをして、またそれが挿ってきた。 「ぁっ」

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