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1 ハイブリッド・ティーローズと約束2
ずっと母と談笑していた仲人が、面子が揃ったとばかりに話し出した。
「こちら、天羽 一輝 さん。AMOUビバレッジの天羽社長のご長男。今は営業部長をなされているのよ」
「いえ、まだ修行中の身です」
「あらあらご謙遜を。大変ご活躍をされていると伺っているわ」
大人の表面的な会話が続いても、名前以外は碧の頭に入ってこなかった。
(一輝さんか……顔だけじゃなくて名前もカッコイイ……)
この人が本当に自分の見合い相手なんだと思うだけで、碧は今までにないほど胸が高鳴り、じっとしていられなくなった。カッコいい人なら碧の周りにもたくさんいる。二人の実兄もアルファなだけあって見目がしっかりしているし、周囲からも評判が高い。けれど、こんなに優しい雰囲気を纏ってはいない。時折見かける兄の友人のアルファも同様で、皆どこかガツガツとして余裕がなさそうだった。
けれど一輝は違っている。周囲の空気までもをキラキラと輝かせるような華やかさがあるのに、その雰囲気はどこまでも優しい。
仲人の褒め言葉に時折困ったような笑みを浮かべるが、それすらもカッコよく見える。
彼の顔を見ているだけで顔が赤くなってしまう。そんな自分を落ち着かせたくて、碧はなるべく彼のほうを見ずに膝の上でこぶしを握った。少しでも緊張しているのを隠すために。
「こちらが菅原製薬の三男の碧さん。今高校三年生ですのよ」
ぺこりと頭を下げるのがやっとだ。
今顔を上げたら、真っ赤になっているのを知られてしまう。だって、こんなにも優しそうでカッコよくて素敵な人、知らない。緊張しすぎてなにも話せないでいる碧に気を使ってか、一輝が色々と話しかけてくるが口を開けずにいると、代わりに母が答えていく。
下を向いてばかりの碧に何度も肘鉄を突きながら。
でもあまりの恥ずかしさに本当になにも耳に入ってこない。
だから、お見合いの定番の「あとはお若い方同士で」のセリフも耳を通り過ぎてしまった。いつの間にか母も仲人も消え、一輝とだけとなった空間に自分がいる。
こんなに緊張したのは初めてだ。
どうしてここまで緊張してしまうのかわからないまま、なにをしていいのかパニックになりながら途方に暮れる。
なにを話していいかわからないし、顔を見て話すなんて最低限のマナーすらこなす余裕がない。
自分を必死で落ち着かせようと、碧は勢いよくお茶を飲むが逆に喉に詰まらせむせてしまう。
そんな碧に一輝は朗らかに笑いながらハンカチを差し出してきた。
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