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2 挑発とグルゴーファ4
「酷いな、菅原くん。僕はそんなつもりで碧くんとお見合いをしたわけじゃないよ」
「ほう。では心を入れ替えて真剣に交際したいと考えているわけだな」
「当たり前だろう。そうでなければ正式に交際を申し込みはしないよ」
本心だ。
彼とはちょっとの好奇心を含んだ真剣な関係を望んでいる。
あの僅かな時間だけで彼の人となりがよくわかったし、どこまでも純真で穢れがなく可愛らしい。今まで自分の周りにいなかったタイプだからか、もっと彼を知りたいと思ったし、自分のことを知って欲しい、好きになって欲しいと感じた。正直、こんな気持ちになったのは初めてだ。
自分なりに誠実に彼と向き合いたいと願っている。
「なるほど。お前の人生をかけてあの子を幸せにできると誓えるか?」
「そうしたいと思っているよ」
「ほう。我が家が示した注意要項にも従うということだな」
「碧くんはまだ高校生だ。学生相手の当然な内容だと私は思っているよ」
ごめんなさい、嘘です。
菅原家から提示されなければ、あんなことやこんなことをしようと思っていました。
だが無駄に年を取っている一輝はその気持ちを上手に笑顔の下に隠す。まるであんなことやこんなことなど考えたこともないというように。
「では、あの子を傷つけないことを誓え。あまりにも無垢に育てすぎたから世間知らずになってしまった」
「いやだな、菅原くん。私を甘く見てもらっては困るよ。大切な人が相手なら私だって当然のことをするよ」
「結婚前に変なことをしたらうちの総力を挙げて君を殺しに行くからそのつもりでいてくれ」
「冗談でも物騒なことを言わないでくれよ、菅原くんが言うと冗談に聞こえないからね」
いや、本気だ。本当に手を出したら殺すつもりでいる、この男は。
それほどまでの殺気を感じながらも一輝は軽くかわす。
本当に碧に何かしたいと思ったら結婚を急ぐしかないということか。
「私は碧くんのペースで行こうと思っているよ。彼の気持ちを尊重したい」
少し見栄を張ってみる。だがそれも玄に鼻で笑われるだけだった。
「なるほど。果たして君にうちの碧を包み込むことはできるか、見させてもらおう」
足を組んで身体を仰け反らせた姿勢が厭味ったらしいなと思いながらも、「試されているみたいで嫌だなぁ」などと軽口を零していく。
同級生なのになんでそんなに上からモノ言ってんだよと心の中で毒吐きながら、挑発的な玄の言動にそのケンカ倍額で買ってやると対抗心を燃やした。
(自分が考えている以上に甘やかして、菅原家の誰かが反対しても碧自身が一輝を選ぶようにしてやる。吠え面かくなよ)
変わらぬ笑みを浮かべたまま、心の中で一輝は玄に挑戦状をたたきつけた。
このまま結婚に進んだら、この嫌味な男が自分の義兄になるのだという現実に気づかないまま。
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