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3 美術館とバベルと初デート4

「家族から反対されているんです。危険だからって……もし運転中に病気が発症したら危ないって思われているのかな?」  不自由しない生活で、自分専用の運転手までつけてもらっているのに、免許を取りたいなどというのは贅沢だと、家族の前では絶対に口に出さなかった想いがポロリと零れる。 「病気、ね。なら、私が隣にいるときだけ運転をすればいい。そうしたら病気が出ても大丈夫だろう」 「いい……のかな?」 「私と結婚すれば、二人のことは二人で決めればいいんだ」 「結婚!?」  また素っ頓狂な声が出てしまった。 「……お見合いってそういうことだろう?」 「あっ、そっか……」  そこまで考えが及ばなかった。 (そうだ、一輝さんは結婚するためにお見合いしたんだ……)  親に言われるがままに生きてきた碧には全く実感がなかったが、よくよく考えればお見合い自体が結婚を前提とした出会いなんだ。 「碧くんはまだ高校生だから実感がなくて当たり前だ。でも私は、結婚するなら君がいいと思っているよ」 「……どうして、ですか?」  まだ会ったばかりだ。  しかも一輝は大人で魅力的な人だ。きっとお見合いなんかしなくても引く手数多だろうし、選択肢は多いはず。なのになぜ自分なんだろう。老舗製薬会社の息子ではあるが、兄たちのように有能でもないし……考えれば考えるほど、なぜ彼が自分を選ぶのかがわからない。 「どうしてだろうね……それをこれから二人で確かめようか」 「二人で?」 「そうだよ。だって私たち二人にとって大事なことだろう。どうして初めて会った時から君に興味があるか、どうして碧くんは僕といると緊張して目を合わせてくれないかとか、ね」 「……ごめんなさい」 「それをね、二人で考えよう。お互いのことを知りながら、ね」  なんで一輝はこんなにも優しいのだろう。ちっぽけな存在でしかない碧にまで気を使い、知ろうとしてくれている。しかも結婚したいとまで言ってくれた。  なら、自分の気持ちはどうだろう。  なぜここまで緊張してしまうんだろう、目を合わせることもできない状態になるのか自分でもわからなかった。  カッコいい人で、優しくて、大人で。自分にはすごく眩しくて、太陽みたいで直視できない。でもよくよく考えれば長兄と同じ年なんだ。一番身近にいた兄となにが変わらないのだろう。  でも先週初めて会ったその時から、碧の頭の中は一輝でいっぱいになっていた。  今日のデートの誘いの話を両親から聞いた時には舞い上がりそうになったほどだ。  兄と一輝、一体なにが違うのだろう。  ふわふわした気持ちのまま、碧は考え込んでしまった。  だがその間も車は順調に走り続け、目的地へと近づいていく。 「もうすぐ着くよ」

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