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4 水族館とあなたの隣とダメな僕5

 ワンデーパスを購入し、まずはと水族館の中に入っていく。小さな魚たちが出迎えてくれる入口付近をさらに奥へと進むと、様々な種類の魚たちが泳ぐ見上げるほど大きな水槽が待ち受けていた。  正面に立つと自分が海底にいる気分になる。 「わぁ……」  さすがにこれはと一輝も碧と一緒に見入ってしまった。イワシが群れをなして水槽いっぱいに泳ぎ、その合間を縫うようにサメやエイが泳いでいく。 「凄いな、これは」 「うん……海の中ってこんなふうになっているんだね」  本当に海の中に沈んでいる感覚になったのだろう、一輝のシャツを強く掴んでくる。  だから彼が安心するように一輝も抱く指先に力を入れた。自分から離さないように。  アクアチューブと名付けられた水槽の中を通る形になっているエスカレーターに乗り、上の階に上がると、薄暗い室内に近海や深海の魚たちが展示されたスペースへとたどり着く。砂と擬態する魚を二人で真剣に探し、円柱型の水槽で気持ちよさそうにたゆたうクラゲをぼんやりと眺めたりしながらゆっくりと屋上へと向かっていく。  深海にいた自分たちが陸に上がってきた、そんなイメージだ。  定番のイルカのショーを堪能し、隣のスペースでフラミンゴやカピバラを間近で見てと、それほど大きくはない水族館なのに出口を通った時の満足感は言いしれなかった。 「凄かった……水族館って面白いんですね」 「そうだね」  思わず同調する。一輝も全く知らなかった。  ここまでじっくりと水族館を堪能したのは自分も初めてだったからだ。予備知識なく来て碧が様々な事を訊ねるので、つい真剣に解説を読んだり、彼がポロリと漏らす感想になるほどと思ったりと、空間の中にいる間に感じたり考えたりすることが多かったせいかもしれない。  新鮮な充足感に、一輝も年甲斐なく楽しんでしまっていた。 「碧くんとカワウソの握手、写真に撮ればよかった」  小さな手を恐る恐る握る彼の表情を記憶だけでなく形として残せばよかったと後悔する。  スマホを持っているのだからカメラ機能を起動すればいいだけなのに、一輝も夢中になり童心に返ってしまいすっかり忘れていた。  思いの外楽しんだのは、碧と一緒だからだ。彼が見つける世界は本当に綺麗で、しかも見つけて終わりではなく様々なアプローチで楽しもうとしている。今まで休日を一緒に過ごしてきた人たちとは違う物の見方に感心してしまうと同時に、彼となら世界がこんなにも楽しいものなのだと感じられることに気づく。  前回のデートもそうだが、芸術方面に疎い一輝も、碧と一緒なら美術館を何周もできた。絵の一つ一つのメッセージを知ることができた。  気の利いた言葉を重ねなくても楽しい時間が過ごせる。  水族館の興奮を引きずりながら屋外をゆったりと散歩する。

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