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4 水族館とあなたの隣とダメな僕8

 そのオーラを感じ取っているのに、菅原の次兄は一輝に目もくれない。ひたすら弟になにかを話しかけている。そして俯く碧から言葉を引き出すとなにか頷いている。一体どんな話をしているのだろうか。  家族に向けているからなのはわかっているけれど、自分以外に優しい顔を見せるのが許せない。  この子はすべて自分のものだ。例え親兄弟でも親しく話すのは許さない。  すたすたと碧の横に立つ。  一輝の存在に気づいた碧が顔を上げ、驚いた表情をしていた。  表情が少し寂しそうだ。さっきまであんなに楽しそうにしていたのに。深呼吸をし、刺々しいオーラを引っ込め、いつもの表情に戻すと碧の髪を撫でた。 「碧くん、ごめんね。さぁ行こうか」 「ぁ……一輝さんいいんですか?」  リナの存在を気にしているのだろうか。あんな女よりも碧のほうがずっと大事なのに。  まだ二度目のデートだというのに、彼に対する独占欲がどうしようもないほどに膨れ上がる。今まで自分は人間関係に対して淡白だと思っていたのに、彼にだけはなにかが違う。アルファ特有の執着心を露骨に表す自分がいるのだ。誰にも執着したことがないのに。 「ご無沙汰してます、天羽先輩」 「久しぶりです、梗くん」  二つ下の後輩の名を口にする。兄に似て不遜な表情だ。 「そういえば、どうして梗兄さんはここにいるの?」 「玄兄さんの代わりに、CM撮りの立ち合いをしに来たんだよ」  そのCMに起用されたのがリナ、ということか。  それとも、それを見込んで水族館とリクエストしてきたのか。深読みのし過ぎかと思いながらも、梗の顔が挑発的だ。玄と同様、碧の隣に一輝がいるのが面白くないと、露骨に表情に書いてある。 「梗兄さんお仕事だったんだね。邪魔しちゃってごめんなさい」 「いいんだよ碧。少し待ってくれたら終わるから、一緒に帰ろうか」 「申し訳ない。まだ碧くんとデートの最中なんです。きちんと門限までには送り届けるので安心して任せてください」  リナの事でフォローをしていない状況で離されてたまるかと碧が返事をする前に言葉を挟む。 「天羽先輩はどうやら色々とお忙しいようですから、愚弟のことで煩わせては申し訳ないですよ」 「いや、そんなことはない。私は碧くんといるのが一番幸せですから。さあ碧くん、デートの続きをしよう」  優しい笑みを浮かべながら再び肩を抱いてその場を離れた。  人の少ないところを選ぶんじゃなかったと激しく後悔しながら。  去っていく一輝を憎らしげに見つめ、梗はリナの元へと向かった。 「大丈夫ですか?」  手を差し伸べられ頬を赤くしながらリナが立ち上がる。だがその手はすぐに放された。 「今日の撮影は中止します。これからあなたの代わりを探さないといけないので」

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