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4 水族館とあなたの隣とダメな僕9
「えっ、どういうことですか!?」
「僕の弟を悪し様に言う人間に菅原製薬の商品の顔になって欲しくない。分かっていただけますね」
リナが驚愕するのを横目に梗はそれだけ言うと広告代理店の担当者の元へ向かった。
その一部始終を知らない二人は丘を降り、クルーズ船の乗り場へと向かう。すでに乗船を始めていた船に乗り込み、二階デッキで出発を待つ。
「さっきは嫌な思いをさせて申し訳なかった」
「いえ……本当のことだから気にしてません。あんな綺麗な人が一輝さんの恋人だったんですね」
無理に笑う碧の表情が痛ましい。
「彼女は恋人でもないし、ただ仕事で知り合った人だよ。私の恋人は君だと思っている」
半分だけ嘘を吐く。碧に嫌な思いをさせたくないし、過去の性関係を知られたらきっと、なにも知らない碧に怖がられてしまうんじゃないかという恐怖もあった。
「それに君はとても魅力的だ。一度会っただけで結婚したいと思わせるほどの魅力があるから、自分に自信をもって」
すぐにわからない魅力だ。だがそれは自分だけが知っていればいい。彼のいいところを皆が知ってしまったらこんなに可愛い子はすぐに取られてしまう。穢れのない彼のまっすぐさを知ったら、欲しがる人が増えてしまう。だから誰も知らなくていい、自分だけが理解していればいいと、リナにはなにも言わなかった。
だが彼の表情は晴れない。
「……僕になんの取り柄もないの、自分が一番よくわかってます。兄さんたちのように頭もよくないし、顔だってカッコよくないから……」
「碧くんの良さはパッと見てわかるものじゃないが、それでも私はそういう君に惹かれているよ」
悲しい顔をさせたくないから言葉を重ねる。
そのたびに言葉が薄っぺらくなっていっているのではと気になる。
心の中で「あのバカ女っ!」と毒づきながらどうしたら彼の顔が先ほどの笑みに戻るだろうと思案する。
その気持ちに気付いたのか無理矢理笑みを浮かべるのが痛ましい。そんな笑顔が見たいのではない。あの屈託ない笑みが見たいのだ。
いろんなアトラクションに乗ってみたが、帰るまで碧の表情は曇ったままだ。
車に乗っても会話が弾まない。
どんな話を振っても彼はその瞬間頑張って笑って答え、次に沈黙が続いた。
一輝は手を拱いたまま、執事に彼を引き渡すしかなかった。
こんなはずじゃなかったのに。
扉の向こうへと消えていく背中を見送りながら、だが原因は自分だ。いい加減な関係を続けてきた結果、碧に悲しい思いをさせてしまった。原因はリナではない。今までの自分が一番彼を傷つけてしまったのだ。
一輝は嘆息しながら今までの軽薄な自分を呪い、帰途に就いた。
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