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6 部屋とワイシャツと膝枕2

 その頃になると、一輝は毎日深夜まで会社にいなければ終わらないほどの仕事に飲まれていた。今までは休日出勤で片づけていたすべてを碧に会いたい一心で平日に済ませるため、どうしても帰宅時間が遅くなる。  しかも営業部に課せられたノルマが前年よりも異様に上がっている。  社長に抗議しに行ったが、楽しそうに碧の名前を出され、菅原家との話し合いの進捗へと移行された。今回のノルマは一輝の能力を菅原家に見せるため、らしい。先方からきちんと仕事ができる相手でなければ大事な末息子との結婚を認められないと言われたそうだ。  どうやら梗からリナの話がいっていたようで、一輝との交際に賛否両論上がっており、賛成派からの提案でこうなったと言われれば黙るしかなかった。  相手の家族に不審がられるのは仕方ない。一輝自身も自分の軽率な今までを呪ったくらいだ。  身辺を一掃し、碧に対しての誠実さを示したつもりだが、菅原家の特に二人の兄は納得していないようだ。 「お前の能力を見せつけてやれ。仮にもアルファだろう。オメガの番を娶りたかったら全力で相手を納得させろ」 (言うのは簡単だよな、くそ親父!)  心で毒づいてもノルマは変わらない。  社長である父からしたら、ノルマに達してもそうでなくても痛くないだろう。オメガの嫁よりも菅原家とのパイプが欲しいだけだから。  碧との結婚のために生まれて初めて死ぬ気で働いた。  営業を部下任せにしていた案件も自分からも取りに行くなど、ただデスクに座って怒号を飛ばしていたスタイルを変えざるを得なかった。だがこれもすべて碧との新婚生活のためだ。 (週末は彼に癒してもらおう)  碧と会うための試練など、試練ではないと自分に言い聞かせ、がむしゃらに働き続けた。  不思議と、一輝が仕事に前のめりになると部下がついてくるようになった。今まで陰で鬼上司だとかデスクと一体型だとか、御曹司パワハラマンだとか好き放題言っていたにも拘らず、だ。 (なんか以前よりも仕事がやりやすいぞ)  気のせいではなく本当に仕事のしやすい環境になっていた。  そして一輝が怒ることも減り、なんとなくだがまとまりのある部署になりつつあった。 (私に欠けていたのは努力か)  人間関係もだが、アルファの特徴である有能性のため、大した努力をしてこなかったように思える。  自分のダメなところに気付くことが多く、そんな人間が碧の夫となっては彼のためにならないのは確かだ。  そうだ、自分は碧の夫、番になりたいんだ。彼を支える人間であるためにきちんとした姿を周囲に見せていかなければならない。でなければ碧が恥をかく。 『一輝さんが周りから酷いこと言われるのは嫌だ』  今一輝も同じ気持ちになっている。

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