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6 部屋とワイシャツと膝枕4

「いやいやいや、碧くんとデートするために頑張っているんだから、それをなしにされたら本末転倒だろう」  碧の気遣いに感謝しながら、でも是とは言いたくない。本当に碧と会いたくて平日死ぬ思いをしているのだから、二人だけの時間をなくしたくない。  頑なな一輝に「頑固ですねぇ」と笑い、新たな提案をしてくる。 「僕が行先を決めてもいいですか?」 「どこか行きたいところがあるのかい?」 「はい。一輝さんの部屋に行ってみたいです」 「えっ?」  いや、待て待て待て!  部屋が散らかっているとか、流しにコンビニ弁当の容器が山積みとかそんなことよりも、自分の部屋に碧がいることで理性が保てるか自信がない。むしろ自分の部屋(当然密室)でなにをしてもとか考えてしまいそうだ。今日のようにくたくたに疲れている時になにもせず彼を帰せるだろうか……。  住み慣れた自分のマンションを背景に、あんなことやこんなことを妄想している場所に彼を招き入れたらと考えただけで、死にそうな精神力が壊滅するに決まっている。現に下半身が僅かに力を持ち始めていた。 「最近寝るためだけにしか帰ってないから汚くて……」 「そんなに疲れているなら余計に遠出はやめたほうが良いですっ!」  どう断っても、碧は意見を曲げてくれない。いつもは一輝のすることを喜んで受け入れてくれるのに。  案外頑固な一面を知った喜びよりも焦りが先に出る。 「……一輝さんの部屋じゃなかったら僕、帰りますよ?」  首を傾げておねだりするようなワガママが、今まで知り合った誰よりも可愛くて一輝はハートを射抜かれる。  こんな小動物のような仕草が似合う男子高校生は碧以外いないだろう。  オメガということを抜きにしても、男をオオカミにさせる魅力を秘めている。 (いやいやいやいや、オオカミ化しちゃいけないだろ!)  今そんなことをしてしまったら、それが菅原家の面々に知られたら、なにをされるかわからない。  だが碧の可愛いワガママ……しかも一輝の身体を慮った内容を無碍にはできない。  どうすべきか……。  結論を出しあぐねていると、碧が車を降りようとする。 「わかった! 今日は私の部屋に行こう……汚くてもいいなら、だが……」  最後の抵抗に部屋の汚さを強調する。そんなみっともない理由を掲げるしかない自分が情けない。だが碧は嬉しそうにドアにかけた手を引っ込めた。 「気にしません。行きましょう、一輝さん」  満面の笑みを向けられ、観念するしかなかった。

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