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6 部屋とワイシャツと膝枕5
完全に心を許したような笑顔が最近可愛すぎて、ハートが射抜かれっぱなしだ。
どうなっても知らないぞと心の中で叫びながらアクセルを踏み込んだ。車で30分の距離を戻る。
会社に程近い高層マンションの一室に碧を招き入れる。菅原家のように執事も家政婦も雇っていない一輝の部屋は、仕事の多忙さと比例して薄汚れていた。
洗濯物は床に散らばっており、テーブルの上には会社の資料がばらまかれ、正直足の踏み場もない状況だ。
玄関を開けてすぐにあるリビングに案内しながら、床に放りっぱなしになっている服を拾い集めていく。こんなにも汚いのは自分でも珍しいと心の中で言い訳しながら。
雑然とした部屋に碧は驚くことなく、一輝が見落としている洗濯物をさりげなく拾っていく。
なんとか道を作り、リビングに辿り着く。
「ソファに座ってて」
と目をやったソファにもたくさんの洗濯物が積み重なっていた。
「一輝さん、本当に忙しかったんですね」
しみじみ言われるほうが胸が痛む。
「申し訳ない。こんなのを見せたくなかったんだけどね……」
みっともない言い訳だ。重々承知していても、つい口から零れてしまう。
「僕が無理やりお願いしたんだから、一輝さんが謝ることじゃないです」
碧はソファの上の服を拾い集め、洗濯機の場所を訊ねるとそこへと持っていく。心なしか、服を掴む手に力が入っているように思える。
恋人に部屋の片づけを手伝って貰うなんて初めてだ。
それ以前に自分のテリトリーに誰かを入れたことすらないのに思い至る。どんなに請われても、どうしてもテリトリー意識が強すぎて断ってしまうのに、碧がそこにいるのを自然と受け入れてしまう。それに一輝は驚きを隠せなかった。
二人で住むための新たな住居ではない、ずっと自分が一人でいるために選んだ場所は、例え気心知れた友人でも親でも来訪を受け入れられなかったのに。なぜか碧はこの部屋の空気に溶け込んでいる。
自分が心を許した相手だからか。
それともこれすらも碧の魅力の一つなのだろうか。
手慣れた仕草で服を分けながら洗濯機に入れている碧の後姿を眺め、不思議な感慨に浸る。
「碧くんは洗濯なんてしないと思っていたよ」
「そうだったんですけど……最近お手伝いさんに教えてもらっているんです。あと、料理も!」
「凄いね。でもどうしたんだい?」
「だってその……結婚……したら、その……」
モジモジしながらの種明かしに鼻血が出そうになる。
花嫁修業ですか!
「嬉しいな。碧くんが意識してくれているだけで本当に幸せだ」
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