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6 部屋とワイシャツと膝枕6
口元に掌を押し当て、脂下がった鼻の下を隠す。
なんでこんなに可愛いんだ……。
これが毎日だったら絶対に死ぬ。確実に萌え死ぬ。
あまりの嬉しさに外へと飛び出してこの幸福を叫びたくなる。高層マンションだから窓は開かないけど。
自分でいろいろと突っ込みながら碧の様子を眺めていく。洗剤自動投入の最新型洗濯機にワイシャツなどの綿類を入れ、乾燥までの設定をしてスイッチを押す。
「これでよし!」
いつもは下着を洗うだけの機械にたくさんの衣服が詰め込まれ回っている。ちょっとした新婚体験に、それだけで一輝はときめいてしまう。と同時にヒラヒラのエプロン姿で家事をする碧を妄想して元気な下半身が自己主張をしてしまう。
(まだだ、耐えるんだジュニア! お前の出番はまだ早い!)
清い関係でいなければ結婚できないのだから、理性を総動員して己を落ち着かせる。
(でも同居したら一番最初のプレゼントはフリルのたっぷりついた白いエプロンだ……ピンクのほうが良いか。それを身に着けた碧と……)
妖しいほうへと妄想してしまう思考を強制的にシャットダウンさせ、余裕のある恋人の鎧をまとう。もし碧に考えを覗く力があるとしたら絶対に変な目で見られる自信があるほど妖しい妄想をすべて打消し、簡単な掃除をする。ようやく表れた床にワイパーをかけ、なんとか居住に耐えうる状態に戻していく。
キッチンはとにかくプラスチックごみをゴミ箱に突っ込むだけだが、念のため流しを磨き碧へお茶を出す。
「手伝ってくれてありがとう、碧くん」
「僕のワガママで来たんだから当然です」
隣に座り、一緒にお茶を飲む。お茶請けなど気の利いたものがない部屋で、さて昼はどうしようかと考えているうちにうとうととし始めた。連日の深夜に及ぶ残業で、さすがに疲れが溜まっていたようだ。もう若くないのかと気落ちしながら襲い来る睡魔と戦うが睡眠不足に加え偏った食生活であっさりと敗北を期した。
本当に一瞬で眠りに落ち、再度目を開けるとなぜか天井と、視界の半分以上にソファにもたれたまま眠っている碧の顔が映っている。
眠っている碧を見るのは初めてだ。
長いまつ毛に小ぶりな唇と小さな鼻と優しい形の眉で構成された寝顔は幼さが強調されている。もう高校生になっているというのにこの寝顔を守りたいと本能に訴えかけてくるものがある柔らかさに、いつまでも眺めていたい気持ちと、小ぶりな唇を味わいたい衝動とが混ざる。
一輝は自分の状況を確認した。
碧の膝枕で完全に眠ってしまったようだ。
しかも掃除を終えてソファに座った時からすでに三時間も経っている。あと二時間で碧を家に送らねばならない。
まさか空腹のままでいさせることもできない。
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