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7 観覧車と花火とプロポーズ5
口を開けて見入ってしまう顔が可愛いはずがない。なのに一輝は否定ばかりだ。
「碧くんのそういう顔が見たかったんだ」
「恥ずかしいよ……」
一輝のような綺麗な人ならみんなが見惚れてもしょうがないけれど、綺麗でも可愛いでもない碧は十人並みを自負しているからただただ恥ずかしいだけだ。しかもこんな惚けた顔なら余計に。
ゆっくりと食事を楽しんで綺麗な花火を眺めながらさっきの花火の感想を言い合う。それだけなのに、すごく楽しくてずっとこのまま時間が止まって欲しくなる。一輝と二人きりの空間で美しいものを見るといつもそう思ってしまう。
たった一時間の演目の最後はまっすぐに流れ落ちてくる光の滝だ。
「わぁっ、一輝さん見てっ、凄く綺麗だよ!」
この感動を一緒に味わって欲しくて声をかける。
なのに一輝が見つめているのは窓の向こうの光ではなく碧だった。
しかもいつもの優しい笑みが消えている。
「どうしたの?」
「碧くん、高校を卒業したら結婚しよう」
とても真剣な顔だ。
「ぁ……はい」
「……プロポーズなんだけどね、わかっているかな?」
キョトンと返事をした碧に一輝は困った笑みを浮かべた。
「えっと……ぁ…」
「これをね、受け取ってくれるかい」
差し出された箱には綺麗な宝石が付いた指輪、ではなく宝石で飾られた時計が入っている。銀色のケースと文字盤、そして数字の部分に煌めくダイアモンドが埋め込まれている。針はゴールドで革のベルトが付けられているとても綺麗な時計だ。
「婚約指輪代わりの時計なんだ。君と同じ時間をこれから過ごしたい。受け取って欲しいんだ」
「でもこんな高そうなもの……」
「碧くんが受け取ってくれないと、プロポーズが成立にならないんだけどね」
パッと見でも高そうと思わせるほど、煌びやかな時計を、恐る恐る受け取る。
こんなに凄いものを貰って本当にいいのだろうか。困った視線を一輝に向けるがいつもの笑顔を返されるだけだ。
でもこれを受け取らないと一輝と結婚できない。これからずっと一輝の傍にいたいから手に取ったが、この後どうしていいかわからない。
一輝は碧の気持ちを察したのか、時計を慣れた手つきで碧の手首に巻き付けた。
「あぁ思った通りよく似合ってる」
「本当に?」
「碧くんは手首が細いから細めの造りにしてよかった。ほらご覧」
一輝が自分の手首を差し出す。そこには碧のと同じデザインで大きさの違う時計が輝いている。
「ぁ……同じだ。うそ…嬉しい」
もう花火のことなんて忘れてずっと同じデザインの二つの時計を見つめる。二人の手首に大きさが違う同じデザインの時計が、同じタイミングで動く。それだけで胸が締め付けられた。
一輝と同じものがここにある。ただお揃いなだけでこんなにも嬉しいなんて。
「時計を贈るのは、同じ時を刻もうって意味なんだ。ずっと私といてくれるかい?」
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