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7 観覧車と花火とプロポーズ6
「はい……」
座ったまま抱きしめられ、いつもなら髪に落ちるキスは、初めて頬へと変わる。
なんとなく子供扱いされていると思っていた髪よりも、ずっと親密度が上がり二人の関係が前進したように感じる。碧からも嬉しい気持ちを伝えたくて自分から一輝に抱き着いた。
「一輝さん、ありがとうございます」
本当にこの人と結婚できるんだ。
今までの口約束とは違う、確かなものが腕の重みだ。嬉しさを伝える術をあまり知らない碧の精一杯の気持ちの伝え方、伝わればいいとばかりに腕に力を入れる。
一輝も同じようにいつもと違う力を籠めてくる。
明確な約束がこんなにも嬉しいなんて知らなかった。
花火がすべて終わり、同時に大きな電子音が鳴りだした。
「うわっ!」
せっかくの雰囲気を台無しにしたのは、一輝の携帯にかけられたアラームだ。
「あぁ、薬の時間だ」
そうだ、いつも薬を飲む時間になってしまったのだ。なんでこのタイミングでと呪うと同時に、長く一輝の傍にいられるように病気を治そうと心を改める。
一輝に渡された薬を飲みこみ、持ってきてもらった白湯を口にする。
エンジンが動き出し、港へ戻るために動き出す。
船での楽しい時間は終わりだ。
でも心が浮きだってもう景色を見る余裕がない。コンビナートの灯りが暗くなった世界を輝かせていても、目に入らないほど手首に巻かれた時計の存在が嬉しい。そしてこれから始まる結婚に向けての具体的な話を一輝がしてくるのも嬉しくて、結婚するその日までがとても輝いて見える。
結納や両家への挨拶、指輪選びや結婚式場とかやることが多い、らしい。だが一輝と一緒に何かすると考えるだけで楽しい時間のように思える。
車に乗り込んで家へと向かう道すがら、夢を膨らませていく。
「指輪は碧くんの好きなものを選ぼう」
「僕、指輪とか詳しくないです」
「詳しくなる必要はないよ。碧くんがこれいいなと思うものにしよう」
「いいの?」
「君が選んだものを身に着けたいんだ」
どんなのにしようか。今まで指輪なんて興味もなかったが今日から見方が変わってしまう。
一輝はどんなのが似合うんだろう。太いのがいいだろうか、仕事をしているからシンプルなのがいいな。
そんなことばかりを考えて、話して、あっという間に家に着いてしまう。
もっと一緒にいたかったのに。
もっとたくさん話したかったのに。
時間が過ぎるのが早すぎる。
いつものように玄関の前に着いた車の助手席の扉を一輝が開けてくれる。
「また来週、話をしよう」
「はい!」
一輝が別れのキスをしてくる。
場所を変えたキスに顔を赤くしながら車を降りた。
テールランプの光が見えなくなるまで見送り、家に入ると遅い時間だからか家族がみんなリビングに揃っていた。
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