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結論から言おう、オレはピンクスライムに転生した。
鬱蒼とした森の中にいることは、全方位に広がる視覚から分かる。ピンクスライムに『目』はないはずだから、周囲を感知する感覚が、前世の記憶のせいで視覚に置き換えられているのかもしれない。よし、音も問題なく聞こえるな。
にょっと体を歪ませれば、伸びたゼリー状の体の一部を見ることも出来た。
今いる場所は比較的開けているが、少し体を移動させるとすぐに草が体内に入り込んでくる。何とも言えない感覚だが、ピンクスライムである以上仕方ないか。
前世では魔王の右腕として地位を築いていたが、魔族・人間問わず男を犯しまくっていたので、この転生は当然の結果かもしれない。
あえなく魔王も勇者の剣に倒れたしな。
オレの最期はどうだっただろうか? 勇者パーティーに好みの男がいたんで、舌舐めずりしたところまでは覚えてるんだが。
まぁいいか、今のオレはピンクスライムだ。
前世の記憶なんて関係ねぇ。今世のオレはピンクスライムとして、男を犯しまくればいいだけの話だ! いいね! ややこしい世情なんて関係なく、ただ本能のままに生物を犯して生きるだけのゼリー状生物! オレ、ピンクスライム!
こんな素晴らしい生命体に生まれ変われたことを誰に感謝したらいいのやら。
しかも普通のスライムじゃなくて、ピンクスライム。
普通のスライムは水色のゼリー状で、生物の生気を吸い取って生きることぐらいしか、特筆する点はない。物理には強いが、火炎や氷結魔法には弱い魔物だ。
けれどピンクスライムは違う。名称の通り、ピンク色のゼリー状のこの生物は、スライム同様、魔物の中では最弱に分類されるが、その生命活動はなんと生物が放つ精気を吸い取って生きるのだ! 普通のスライムと違って相手を殺したりはしない! なんて心優しい生き物! まぁ殺しちゃうと精気吸えなくなるからな。んでもって精気も奪い過ぎると、相手が死んじゃうのには変わりないんだが。
しかし一番特筆すべき点はコレだ。
ピンクスライムには『催淫効果』があるのだ!!!
水に薄めて少量を飲んでよし、夜のお供に体を這わせてもよし。
その効能はお墨付きで、魔族・人間関係なく大人気の生き物だった。
だがいかんせん、人気過ぎて乱獲され、今は希少生物となっている。
そんな種族問わず愛されラブリーなピンクスライムに、オレは生まれ変わった。
だとしたらやることは一つ。
男を犯す! そして繁殖して、子孫を残すのだ……!
別に女が嫌いってわけでもないから、前世でも子孫は残している。魔王が敗れた今は、子供たちが魔族を率いてくれているだろう。魔族は子供の出生率が低いが、種族を気にしなかったおかげで一ダースも残せたオレは偉いと思う。やっぱ選り好みはいかんな。数打ちゃ当たるのだ。
スライムの繁殖については、生命力が上限に達すると体が分裂し、新しい個体になることが分かっている。ということは、オレにも『元』となる個体がいたはずだが、周囲には見当たらなかった。別に元の個体のことはどうでもいいか。
ピンクスライムの生命力を溜める方法は簡単だ。
生物から精気を吸えばいい。
生きるためにも、繁殖するためにも、それは不可欠だった。
ピンクスライムの唯一無二の生物としての意義。ここまで来ると清々しいな。
仕事しろと責められることもなく、精気の搾取だけしていればいいのだから……ピンクスライムって最高!!!
万歳をする代わりに、ピンク色の体を弾ませたところで藪から葉の擦れる音が聞こえた。
ちょうど獲物が来たみたいだし、小手調べといくか。
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