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すっかり話はまとまり、レイはシドの元へ向かうことが決まった。
だが帝国内でもグレイクニルが生きていることは秘密にされている上、勇者側に会談を邪魔される危険もあるので、移動は極秘裏に行われるらしい。
しかもこれから出立するという急な話だ。
アッサムはレイの気が変わらない内にと言わんばかりに、移動用の馬を準備するため、一旦レイの家を後にした。
今から二人だけで向かうのは、いくら何でも無理があるんじゃないか? 問いかけるようにレイに擦り寄ると、彼はグレーのヒゲもじゃの顔で笑みを作る。
「危険は承知の上だ。それにこの会談がダメ元であることは、兄上も分かっているだろう。……薄情なのは私も一緒だよ。今の私は国のためというより、スズイロ卿の生存を確認したいがために、シド卿のいる魔族領へと赴こうとしているのだから」
オレはここにいるんだけどなぁ。
だが行く気になってしまっているレイを、止める手立てがオレにはなかった。
……仕方ない。こうなればオレも一緒に行って、シドの死体遊びを説教するか。父親の死体を修復するだけならまだしも、勝手に動かしているのはけしからんしな。
しかしレイもどうしてオレの生死にこだわるんだろうか?
仮にオレが生きていたところで、魔王が討たれた後に停戦協定を結ぶはずがない。基本脳筋の魔族は、停戦よりも仇討ちに躍起になるだろうからな。
それにオレの姿を確認しようにも、反故になった会談がお互いの初対面になるはずだった。まぁオレも会談前には出回っていた肖像画でグレイクニルの顔を確認していたから、レイもそうするつもりなんだろうか。
疑問にウネウネとゼリー状の体を揺らしているオレを見てレイが笑う。とぐろを巻いた蛇も一緒に揺れているのがツボに入ったらしい。
「ははっ、和ましてくれているのか? …………君にだけ打ち明けるとな、スズイロ卿は、昨日話した、私のはじめての相手なんだ。もっとも、魔族の中でも屈指の美しさを誇った彼が、少年時代の私のことなど覚えてはおらぬだろうが」
ん? 昨日の話の相手って…………。
少年時代のレイを犯した魔族って、オレかよ!!!!!
言われてみれば、やたら身分の高そうな子を相手にしたことも……あったか?
「彼は私のくすんだ髪色とは違い、輝くような銀色の髪を伸ばしていてな……あぁ、今でも目を閉じれば思い出せる。すっと通った鼻筋や顔の造形に微塵も狂いがないのはさることながら、あのアメジストの瞳に私は捕らわれてしまったんだ。彼はどうやら興奮すると瞳が赤くなるようでな、瞳が紫から赤く染まる様子を私はじっと眺めたものだ……」
そんな彼は今やピンクスライムだけどな!
過去のオレを懐かしむレイは、胸元から小さな肖像画を取り出す。そこには見覚えのある魔族が描かれていた。
……もしかしてずっとそれ持ち歩いてるのか? レイくん、ドMなの?
乱暴された相手に心酔する姿を見たら、そう思わざるをえない。
まぁ、何故か昔から犯した相手には、好意を寄せられるんだがな。ヘビも相変わらず体の上にいるし。
そうこうしている内に、アッサムが馬を連れて戻って来た。アッサムは、玄関先で寄り添うオレたちを見て眉をひそめる。
「お待たせ致しました! ……レイ様、まさかそのピンクスライムも連れて行かれるんですか?」
「いや、そんなつもりは……」
レイが返事をするよりも早く、オレは馬の鞍に跳び乗った。
おうとも! 一緒に行くぜ!
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