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「あぁ、その通りだ。停戦協定を結ぶにあたり、レイには魔族側にとって有利な条件を引き出してもらいたい。オレは、戦争は望んでいないからな」
武器商人たちは力を温存した魔族が、また打って出ると思い込んでいるかもしれないが、それにどれほどの歳月がかかるかは……後世を生きる者たちが決めることだ。
「待ってくれ! 可能なのか? 今から停戦協定を結ぶことが」
魔王が討伐されたことで、魔族内では仇討の機運か高まっていることは、レイも知っているんだろう。
それに関してはオレが表に立って、魔王の意志を伝えれば多少落ち着くはずだ。
「簡単な話じゃねぇが、不可能ではないだろ。まずはレイを新しい魔王だと認めさせるところからはじめないとだが」
「それは……限りなく可能性が薄い話じゃないか?」
無理を言うなとレイが呆れた顔になる。分かってねぇなぁ。
「オレは一度死んだ。レイも、死のうと決めてたんだろ? そんなヤツらには難題が山積みな方が、生き甲斐があると思わないか?」
ピンクスライムのオレと、成功する見込みのない交渉に出されたレイ。
今のオレたちに立場を気にする身分なんてものはない。
「それともレイは、カストラーナ帝国の王弟として死にたいか?」
「……願い下げだな」
兄王にいいように使われたことに関しては、レイも腹に溜め込んでいるものがあるようだ。返事には、とてもにこやかな笑顔が伴っていた。
「ははっ! だったら二人で、無茶をしてみようぜ」
「分かった……『二人で』だな」
「任せろ、こう見えても前世では魔王の右腕だったんだ」
経歴に不足はないだろうと言うと、レイは自然な笑みを作る。やっぱり腹黒い笑顔よりこっちの方がいいな。
「はぁ……とんでもない老後になるな」
「オレも今世は世情に関わらないと思ってたんだがなぁ」
この体に入ってしまったのが悪かったのか。
思考がどうしても生前のものに引き寄せられてしまう。
しかも一度入ってしまうと出て行く気になれない。何と言っても射精出来る肉棒があるからな!!!
手元にある水で唇を潤していると、レイが尋ねてきた。
「その体は腹が減らないのか? スズイロは夕食のとき、何も食べていないだろう?」
「ん? そういえばまだ腹に空きがあるな。もう一戦やるか」
「いや、そういう意味ではなく……」
「ただの死体だったときはシドの魔力で動いてたみたいだ。ピンクスライムが浸透してからは、精気で大丈夫のようだぞ」
レイの疑問に答えながら彼を押し倒す。
廊下が慌ただしい気もするが、きっと前線にいたシドの副官が知らせを受けて帰ってきたのだろう。
ロロの相手はシドに任せて、困った顔のレイにキスをする。
「ん……せめてベッドに行かないか」
「次な」
「次って……」
「今はお前の下にあるマントをドロドロに汚したい気分なんだ」
既に少し汚れてしまっている黒い布を指差すと、レイはなるほどと頷いた。
「それなら私も異論はない」
「祖国への冒涜だな」
「私はこれから魔王になろうという人間だぞ?」
「はははっ、それでこそオレの魔王様だ」
二人笑い合って口づける。
オレもレイを魔族のために使おうとしている点では、カストラーナ帝国の王と同じかもしれない。
だが、違う点もある。
オレは決して、レイを一人にはしない。
前世でもそうだったように、最期のその瞬間まで、共にいることを誓う。
「ずっと傍にいてやる」
「っ……」
「今まで一緒にいてやれなくて悪かったな」
そう口にすると、レイはオレの背中に腕を回した。
「貴方は……ズルイ。簡単に私の心を奪っていく」
「ふっ、お前が言わせてるんだがな。オレは節操なしだが、誰にでも忠誠を誓うわけじゃないぞ」
「節操はないんだな」
「ピンクスライムだからな?」
その前からだろうという反論は受けつけない。
オレ、ピンクスライム! 今世でも魔王の右腕になるんだ!
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