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第17話 直感

 一瞬空気が固まった感じがした。フジキがカツラを見て、息を飲んだのだ。彼は金縛りにあったようにカツラを凝視している。 「タイガ。注文きまった?」 カツラはタイガに気さくに声をかけた。そしてタイガの隣にいるフジキからさすような視線を感じ、フジキに視線を移した。 「えーっと…。お客さんも?」 場をなごまそうとカツラが思い切り良い愛想で伺った。 「フジキさん。」 「あっ、えーっと。」 タイガの問いかけにフジキはやっと我に返る。 「いや、まだ今から決めようと思って。決まったら呼ぶから…。」 フジキはじっと見てしまった気まずさがあるのか、カツラから顔を逸らし小さな声で答えた。タイガは自分がカツラに初めて会った時の衝撃もすっかり忘れ、フジキがこんなに動揺するなんてと驚いていた。 「会社の人?」 カツラがタイガに尋ねた。彼はすぐにこの場を去る気はないらしい。 「あ、うん。すごく世話になっている先輩。フジキさん。」 フジキはタイガとカツラのやりとりを聞きいていた。ようやく気持ちが落ち着いたのか、タイガとカツラの顔を見やる。カツラはフジキが話せる状態になったと判断したのか、彼に自己紹介を始めた。 「初めまして。フジキさん。タイガとお付き合いさせてもらっています。カツラです。」 カツラは同じみの優しい微笑みをうかべている。タイガが驚いたのは、カツラ自ら付き合っていると言ったことだ。彼が二人の関係を大切に思ってくれているのだと胸が熱くなった。 「あっ、そう…。そっか、そっか。タイガからは聞いているよ。いい人ができたって。こいつ生真面目すぎるからやりにくいかもしれないけど。仲良くしてやってくれ。」 フジキはカツラに軽く頭を下げた。カツラの存在に最初こそしろもどろのフジキであったが、最後の一言にはしっかりとした彼の気持ちが込められていた。それはタイガにも伝わった。二人のやり取りにタイガは感動していた。そして頭を下げられたカツラも少し驚いているようだ。しかし、カツラはしっかりとした声で答えた。 「はい。大丈夫です。」  注文後、カツラはヘルプを頼まれる。今夜は奥にいなければいけなくなった。というのも、難しい客が酒の情報を聞きつけ来店したらしい。 酒も料理も店長の次に詳しいカツラが対応するほうが、無難ということでお声がかかってしまった。三人で話せないのは残念だったが、フジキへの紹介は済ませたので、また機会はあるだろう。 「いやぁ、驚いた…。」 フジキが息を吐きながらつぶやいた。 「あんな美人、よく射止めたな。」 「いやぁ…。」 タイガは照れながらも素直に喜んだ。  そんなタイガを見てフジキは嬉しく思った。それにしても不思議だ。カエデといい、カツラといい、タイガにはどうして性別を超えた遺伝子レベルで人を惹きつけるやつがよってくるのだろうと。そしてフジキ自身は完全なノーマルだが、少しやばかったとも思っていた。カエデのときは一切なかったが、カツラには...。誘われたら一線を越えてしまうと感じていた。  だからこそフジキは一抹の不安を感じた。カエデの時とは違う。タイガとカエデは似ている部分が多かった。最初にカエデを紹介された時も直感でそう思ったし、会う回数を増やしていったときも、やはりタイガとカエデの二人は似ていると思ったものだ。 カツラはというと...。カエデの対局にいるような感じがした。なにがとは具体的にわからないが、フジキはわずかな違和感を感じた。  しかし、今はそれはいい。タイガが幸せそうにしているのだから。しかも、結局はお似合いだと思っていたタイガとカエデは別れてしまった。タイガとカツラが今後どうなっていくかは、誰にもわからない。フジキはこのことを自分の胸にしまっておくことにした。

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