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第5話 遭遇

「いってきます。」 仕事で両親達が消えた家に向かって 僕はいつもの挨拶をして 鍵を閉めて、 いつも通りにマサトの家へと向かった。 マサトの朝練が休みの日、 いつも僕はマサトの家まで彼を迎えに行くのだ。 小学生の時から習慣になっているこの行為は 僕にとっては非常に大切で 毎朝、彼の気分や話を聞くのが最高に楽しみで たまらなかった。 先日あった彼女騒動だってなんのそのさ。 彼の友人であるかぎり、 この楽しみは変わらないんだから。 彼の家に着き、インターホンを鳴らそうと 指を出そうとした瞬間 ガチャリと扉が先に開いた。 「珍しい、僕の呼び出しより先に出るなんて…。」 自分の出来る精一杯の明るい笑顔を 扉から出てきた影に向ける。 でも、 明らかにマサトとは違う香りが僕の鼻腔をかすった。 思わず、目を見開くと そこには見知らぬ女子生徒がいたのだ。 茶髪のポニーテールにシースルーバング。 流行りのルーズソックスとミニスカ。 桃色のリップが良く目立つ。 バッチリと目が合ってしまった。 予想だにしなかった展開に 僕は硬直してしまったが、 そんな僕を怪訝そうに見つめる彼女の瞳は コロコロと動いて首を傾げた。 そして、家の中に向かって呼びかけたのだ。 「マサト!お客さん来てるよ!」 思わず、 は?と声が漏れてしまった。 呆然と彼女の横顔を見つめていると、 家の奥からバタバタと呼ばれたマサトが出てきて 僕の姿を見るなり 少し顔を赤くして笑った。 「すまん、ミキ!まだ用意出来てなくて…その… ちょっと待っててくれ。」 「う、うん。いいけど…。」 僕が頷くと、隣にいた女子が僕の方を穴が空くほど見だして、 綺麗に並んだ歯を出しながらいきなり 僕のことを指差して笑ったのだ。 「もしかして!アナタがミキくん?」 「えっ…そう、ですけど。」 「あはは、マサトから聞いてます〜。 あ!私アカリっていいます! 一応…アイツの彼女的なやつです。」 横っ面を殴られた気分だった。 彼女。前話した、かのじょ。 恋人。 分かる。それは非常に分かる。 でも、こんなの聞いてない。 このアカリって子はマサトの彼女だって言ってる。 何故か僕のことも知ってる。 でも、どれも僕は知らない。 瞬間、拳に力が入る。 僕が知らないマサトの情報の一部でいある彼女に 怯えているのかもしれない。 いや、嫉妬か? まあ、それはなんだっていい。 とにかく、僕は彼女が嫌いだ。 それだけは確かに言える。 上がりそうになる息を抑えるように 僕は一度胸を撫で下ろし、 再度彼女に向き直った。 何も悟られないように、いつもの笑顔で。 「彼女…?驚いたな。僕も話に聞いてたけど、 こんなところで会うなんて。」 本当にだよ。 こんなところで会いたくなった。 「とにもかくにも、会えて嬉しいです。 親友の彼女なんて、めっちゃ気になってたし。」 あぁ、嘘。嘘だよ。 嬉しくなんてない。早く貴女にはこの場を立ち去ってほしい。 僕の腹の底なんて知らない彼女は 何が楽しいのか、 手を叩いて笑い、僕に手を差し出してきた。 「とりあえずよろしくね。えっと、ミキくんでいい?」 「はい。それでどうぞ。よろしくです。」 気分に任せて彼女の手に爪を立てないように 僕はそっと細い指が生えた手のひらに握手を返した。

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