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SideーA 下段の純情

      SideーA 下段の純情  丑三つ時、上段の底板が軋めいた。それを合図に、妖しい振動が伝わってきた。  恒例行事のはじまり、はじまりぃ。海斗(かいと)は寝ぼけ(まなこ)をこすり、呻いた。安眠妨害と底板をぶん殴ってやるのが正解の場面で、だが拳を握るどころか、気をつけと号令がかかったように身を硬くするありさま。  ため息がこぼれる。夜な夜なに励むあたり、あいつは、日本オナニスト協会認定の皆勤賞でもめざしているのだろうか。  二段ベッドの上の段、すなわち垂直方向的に至近距離の場所で、ルームメイトがひとりエッチにおよぶ。何系の嫌がらせ? セクハラがすぎる、という状況に慣れつつあるのだから、適応力ってやつは素晴らしい。    海斗は全寮制の、中高一貫校の五年生だ。新年度を迎えるにあたって学年単位でシャッフルが行われ、新しい部屋割りが発表されたさい、 「うっ、しゃあーーーーーーーっ!」  雄叫びをあげるわ、誰彼なしにハイタッチを求めるわ、はしゃぎまくった。  なんと! 同級生の雪也(ゆきや)──密かに、且つ悶々と恋心をつのらせてきた相手とふたり部屋、という幸運を射止めたのだ。  容姿、頭脳ともにずば抜けていて、いわゆる高嶺の花的な雪也に魂を鷲摑みにされたきっかけについて縷々(るる)書き綴ると一万ページを超える大作になるので、割愛する。  おたがい引っ越しをすませて、今年度いっぱいよろしく云々、と雪也に挨拶する間中、海斗は宙をふわふわと漂っている心理状態にあった。ところが甘い幻想は儚く砕け散った。優等生の(ほま)れが高い雪也が、ひと皮むけばオナニー依存症(恐らく)だとは、ほどんど詐欺だ。  夜のしじまに響く、きしきし。海斗は輪郭がぼやけて、なのに小刻みに揺れて見える底板を睨んだ。は寝返りを打つのさえ(はばか)られて、そのぶん妄想がどんどん膨らむ。  オナる手順は基本的に同じ、だと思う。パジャマ派の雪也にしてもズボンおよび下着をずり下ろして、しこりやすいよう態勢を整えるのが第一段階のはず。  その名の通り色白なだけに、双丘は真珠の輝きを放つだろう。淡々しい(たぶん)和毛(にこげ)を背景に蜜をはらんだペニスは、美術展のメインを飾る絵画の数万倍も魅惑的に違いない。  衣ずれが甘美な調べを奏でて海斗を苛む。

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