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夕人が新しい中学に編入してから、2ヶ月が経っていた。
推薦入試で志望校を受けた夕人は、2月中に無事合格発表の知らせが来、高校入学の準備をしていた。
そんな中ーー……
「はぁっ……はぁっ…はぁっ…」
『ピンポーン』
「ー…はい、あっ速生くん?」
「夕人!夕人ーーーー!!夕人!!
おばさん、夕人いるーー!?」
『タンタンタンタン…』
階段を足早に駆け降りる音。
『ガチャッ!』
「速生っ!!ーーーーどうだった……?」
夕人は深刻な面持ちで、速生の顔を見つめる。
「ーーーー…ってた」
「ーーーえ?」
「受かってたぜーーーー!市立第一高校!!
俺、マジすごくねー!?」
「………………!!!」
速生の大声に、夕人は声が出ず、思わず玄関のタイルにへなへなと座り込んだ。
「おっ、おい!夕人!!どうした?」
「い、いや……安心したら、腰抜けた……」
夕人の姿を見て速生はいや、なんでだよ!と笑って、腕を持って立ち上がらせた。
「すげぇじゃん…速生。
ほんとに…………おめでとう」
夕人の真剣な顔と言葉に、速生は照れくさそうに「へへ…」と笑う。
実は『自分も市立第一高校を受ける!』と断言したあの日から、速生は、毎日猛勉強に励んでいた。
夕人もたまに勉強に付き合い、得意な分野は解き方や暗記のポイントを教えたりもした。
大好きなバスケの練習もセーブして、過去問や参考書を使って連日連夜勉強に明け暮れるほどだった。
速生の母は、突然人が変わったように勉学に励む速生を見て、嬉しがるのを通り越して気持ち悪がっていたが、やっと未来へ進む努力をするきっかけを掴んだのかーー、と、静かに応援した。
そしてその努力は身を結んで、無事、夕人と速生は、同じ高校へ進学できることが決まったのだった。
ーーーまさか、本当に受かるなんて…。
「いやぁ〜〜〜、もう、正直テストとか参考書とか、見たくもないね!俺はやっと解放されたんだ…今から遊びまくるぜー!」
「はは……まあ、今はいいだろうけどさ。
一応、進学校だからな、入学してからはこまめに予習・復習していかないとついていけなくなるんじゃないか?」
「げっ……」
そんな今からテンション下がること言うなよぉ、と速生は情けない声を出す。
「そういえば、伊勢も無事受かってたぜ。
俺が“落ちる”って言ったやつらに、賭け金聴取しに行くかな」
ふっふっふ、とワルそうな笑みを浮かべる速生。
「根に持ってたのかよ……。
でも、伊勢くんも受かってたんだ、良かったな。速生、高校でもバスケ、一緒に出来るじゃん?」
「まーな。けどさ……。
俺がやっぱり、1番市立第一に行きたかった理由はさ……」
速生が視線を下ろして顔をじっと見ると、夕人はきょとんとして、見返す。
「〜〜〜〜んーーー、ま、まあ、万事okということでっ!!
じゃっ、俺、家戻って母さんに報告してくるわ!仕事中だけど、結果わかったら電話だけ入れてって言われてんだよ!
じゃーな、夕人!」
「えっ、?あ……っお、おう……」
ーーって、まだおばさんに報告してなかったのかよ!優先順位おかしいだろ、なんで1番に俺に……。
そう思いつつも、つい顔がニヤけてしまいーー、夕人は顔を赤くしながら、部屋に戻って行った。
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