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傷跡 1-4

土曜日の午前にしては比較的空いたバスの車内。2人は横並びで席についた。 『ブロロロロロ……ーーー』 発車するバス。 窓から流れる街並みと差し込んでくる陽射しが眩くキラキラと光り、夕人は目を細める。   「なぁ、夕人。今日、やっぱり嫌だった?」 速生が夕人の顔を見て、気まずそうに尋ねる。 「いや、そんなことないよ。なんで?」 「だってさ、なんていうか…すごい不安そうな顔してるだろ」 「…………」 ーーー自分の顔は、周りからそんな風に映っていたのか。 「………んなことないって。ちょっとさ、いろいろ考えてて寝不足なだけ。 俺、初対面の人と話したりするの苦手だけどさ、けど、それは速生が何とかしてくれるんだろ?」 な?と速生の顔を見て微笑む夕人は、どことなく憂い気を感じさせた。 「ま、まあな〜!任せとけよ。 じゃあ今日は…俺はしゃべりに徹するから、夕人は、ひたすら美味しいものいっぱい食べる日な。俺と俺の母さんと、夕人の母さんの分まで食えよ!」 「はは……そんな食べられるかよ」 夕人の笑顔に、速生は少し安心した。 (俺の思い過ごしかーーー? なんだか、元気が無いんだよな、夕人……) 速生は夕人の横顔を見つめる。 座席後ろから差し込む日光に照らされて、夕人の黒髪は揺れながらきらきらと光る。 白い肌は心なしかいつもよりもいっそう白く見えた。 少し褪せたタッチのデニムジャケットの中には無地のロンT、まだ少し肌寒さを感じるからか、厚手のコーデュロイパンツを履いている。 (今日はまたひときわ、オーラが出てるなーー…) 夕人はどんな私服を着てくるのだろう?と心待ちにしていた速生は、何を着ても、様になるな。と思った。 「ーーー…速生、いいよな。背高くて」 「えっ??」 夕人の突拍子のない質問に、速生は驚いた。 (ーー横顔盗み見ていたのバレたのかと思った…) 「なに食ったらそんな伸びるんだよ? ーーしかも、足まででかいしさ」 その言葉に速生は足元に目をやった。 夕人の履いたconverseのローカットスニーカーの横に、NIKEのハイカットシューズを並べて眺める。 「……………」 パッと見ただけでも明らかに大きさの違いがわかる。 「でかいからって別にいいこと多いわけでもないぜ? 力あると思われてんのかやたら荷物持ちにさせられたり、目立つからすぐ注意されるし。 あと、服も靴もサイズアウト半端なくて、母さんに“これ以上デカくなったらバイトして自分で服買え!”とか言われてさぁ……ひどくね?」 「ははっ……確かに…」 夕人は笑った。 速生と話している時は、楽しくてーー…心穏やかに、安心している自分がいる。不安や億劫な気持ちも全て、その時は忘れられている気がした。 『次はーー…〇〇駅前。〇〇駅前。お降りの方はーーー…』 運転手のアナウンスに、速生は窓の外を見た。 「ここで降りて、電車に乗り換えだーーー」 「……うんーーー」 夕人は左手首から肘にかけてを服の上からぎゅっと押さえると、席を立った。

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