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傷跡 1-7

「ーーーうぅ…っ!!」 夕人は口を押さえて、しゃがみ込んだ。 「夕人!?」 顔を真っ青にして、息を切らせる。苦しそうに胸を押さえたまま立ち上がると、壁伝いにふらふら とホームの隅へ移動した。 「夕人っ!!」 異様な様子の夕人をすぐさま速生は追いかけた。 「おいっ!ど、どうしたんだよ!? 気分悪いのか?なぁっ!夕人!大丈夫か!?」 「はぁ……はぁ……はぁ……っ…つぅ…っ」   速生は夕人の背中に手を置いた。小刻みに震える体、荒れた呼吸、青ざめた顔ーーー。 あの時、初めて会ったあの雪の日と、全く同じだーーーー。 「ごめん……っ、俺、やっぱり無理だ……」 堪えていた涙が、一気に溢れる。 なんとか、耐えようと思ったのに。 速生と一緒ならーー…きっと大丈夫だと。 「な、なにが無理なんだよ?やっぱりその…行きたくないのを無理して……?」 「ちが……違うんだ……はぁっ。 ……俺…電車は……駅の、ホームが……はぁっ」 「落ち着けよ、大丈夫だから…!なぁ、ちょっと…こっち、とりあえず移動しよう。 歩けるか?」 夕人は頷いた。 速生はきょろきょろと周りを見渡して、1番近くにあったベンチへと、夕人の肩を担いで移動させた。 ズボンのポケットからハンカチを取りだして、夕人に渡す。 「はぁ……っはぁ…っ…ごめん、……はや…み…」 「苦しいんだろ?無理して喋らなくていいから… これって、またあの時みたいな……もしかして喘息の発作か? とりあえず、病院とか……」 あたふたしながら心配する速生の言葉に、夕人は、黙って首を横に振った。 「違う……違うんだ………っ。 これは、喘息じゃない……苦しさが全く違う…から……」 「え…じゃあ、何のーーーー」 夕人は一呼吸置いてから、速生の顔を見た。 (夕人……………?) 涙で潤んだ瞳に、青白い顔。言葉では言い表せられないその表情は、 ただ、 “助けて” と叫んでいるように見えた。 「なぁ………何があったんだよ? 夕人、話して? 俺にできることがあるなら……何だってするから、だからさ…」 きっと、何か…とてつもなく大きな何かを、夕人は心の中に抱えている。 そう感じた。 「速生…………俺……ーーーー」 真っ直ぐ、真剣な顔で、夕人の瞳を見つめる速生に、夕人は、決心をした。 あの日の、あの事件のことをすべて、話そうとーーーーー。

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