63 / 113

初めての夏 2-1

盆の連休が終わり、酷暑も落ち着いてくる中、高校の夏季休みも終わりに近づく。 夕人たちのクラスの普通科は、授業の遅れを補填するための全員補習授業ということで、盆明けに登校することとなった。 「……ゴホ、ケホケホッ……」 「夕人、大丈夫?」   朝から乾いた咳をする夕人に、母は心配そうに様子を伺う。 「うん、大丈夫。熱はないから…」 脇で測った体温計に目をやると、”36.8℃”を示している。 「少し高めね……夏風邪かしら?休まなくて大丈夫?学校」 「んー……今日休んだら、今度また別の日に補修の補習出ないといけないからさ……今日は頑張って行くよ。大丈夫、午前中だけだし」 “美術部にもちょっと顔出しておきたいから”と、リビングソファにもたれかかっていた気怠い身体を起こして、夕人は通学鞄を肩に掛けた。 「今日、お母さん仕事の打ち合わせで出かけるけど……何かあったら電話するのよ? ほら、マスクして行きなさい」 母の心配そうな顔を横目に、夕人は「いってきます」と玄関を出た。 ーーー速生……は、そっか、朝練…。 『♪♪』 バスケ部の朝練で先に登校した速生のことを考えていると、カバンの中のスマホがメッセージ着信の音を鳴らした。 “おはよ!起きてるか?今日登校日だぞ” 「……ははっ、出たな……めざまし速生」 バス停に着いた夕人は、スマホ画面を見て小さくつぶやいた。 “起きてるよ 今からバス乗る” “なら良かった!気をつけてこいよ” 相変わらず心配性な速生の気遣いに、夕人は、くすっとマスクの下で静かに笑った。 ーーー風邪ひいてるなんて言ったら無駄に心配かけてややこしくなるから、黙っとこう……。 時間通りに到着したバスに、一人乗り込んだ。 世間はまだ盆休みの人たちも多いためか、バスの車内はかなり空いていた。夕人は前の方の座席まで移動して、着席した。

ともだちにシェアしよう!