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ふたりの未来 1-1

ーーー二年後……… 「ーーー相模先輩!」 放課後の美術部室。 夕人は、1年の後輩に名前を呼ばれ水彩画の筆を動かす手を止めた。 「………なに?えっと………1年の……」 「矢代(やしろ)です!相模先輩、いい加減名前覚えてくださいよ〜〜…。」 この春三年に進級した夕人。 部の最年長となり後輩が出来ても、部員の仲間の名前すら覚える気のないという他人への興味のなさは全く変わっていなかった。 「あの、相模先輩って……この後なにか予定、ありますか?」 「予定………?特には無いけど」 「あのっ!じゃあ……俺と、ルノワール展観に行きませんか?今、市立美術館でやってる……」 「ルノワール展?……あぁ、ごめん、それなら……」 「はい!ざーんねーんでしたぁーーー!!」 夕人の言葉を遮るように、後ろから人影が現れる。 1年部員の矢代(やしろ) (あつし)と夕人の間に割り込んできたのは…… 「ルノワール展なら、おととい俺と観に行ったから…君とは行かないと思うぜ?なー!夕人」 「速生……早いじゃん。 バスケ部、もう練習終わったのか?」 速生は矢代に向かってふふんと鼻で笑って見せる。 「べっ別に……もう一回行ったっていいじゃないですか!相模先輩!俺とも行きましょうよ」 矢代は悔しそうな顔で速生を睨むと、「出たな,相模先輩の付き人……」と小さく呟いた。 「芸術の心の全く無い玖賀さんと行くよりも……俺と観に行った方が絶対楽しめますから!ね、相模先輩」 「あ〜〜〜〜?失礼な…こう見えて俺だって毎回選択は芸術とってるし絵心だってなぁ……」 二人のやりとりを横目に、心底面倒くさそうな顔で夕人は後片付けを進める。 「夕人!」「相模先輩!」 「………行かない!もし仮にまた行くなら、1人で観に行くからほっといてくれる? そもそも美術館は静かに観たいんだよ」 その言葉に矢代はしょぼんと俯くと、「わかりましたよー…」と残念そうに答えた。 「まぁ、いま進めてる芸術文化祭用の水彩画、アドバイスするくらいなら出来るからさ……また声かけてよ。矢代くん」 「えっ!あ、はい!俺……頑張ります!」 矢代は初めて名前を呼んでもらえた、と夕人の言葉にパァッと明るい表情になった。 その様子を少し面白くなさそうに見ていた速生は、帰り支度を済ませた夕人の通学鞄をひょい、と抱える。 「じゃ、夕人帰ろうぜ? …矢代くん、残念だったね〜まあ、頑張って?」 「………ふん、余計なお世話です」 「速生お前大人げないよ、三年が一年に喧嘩売るなって……あ、部長。 俺今日は先帰るね、出展用の水彩画、乾かしてるって顧問に伝えてくれる?」 美術部部長は3人のやりとりを見て苦笑いしながら、「お疲れ」と手を上げた。

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