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ふたりの未来 1-2

二人はいつものように下駄箱まで歩いた。 「あれ、速生……靴変えた?」 夕人は足元に目を落とす。 速生が下駄箱から取り出したスポーツメーカーの運動靴は、真新しく光って見える。   「あぁ、うん。また足大きくなったみたいでさ…前のやつほとんど履いてないのに、母さんにまた“勿体無い!”って怒られたよ。 成長するのは俺のせいじゃないのに…理不尽じゃね?」 速生は靴のロゴ部分をめくって、「28.5cmとか、もうアメリカサイズだぜ」と苦笑いする 「はは……おばさんのその言い方、想像つく。 確かに、速生お前、また背も伸びた?」 「そういや最近測ってないけど、なんか、視野広くなった気するかも? ……どうすんの俺、このまま行くと卒業する頃には2メーターいっちゃうぜ」 「さすがに伸びすぎで怖いわ……牛乳やめたら?」 速生は三年に進級してから、バスケの腕とそのリーダーシップを認められ、バスケ部部長とチームの主将(キャプテン)を兼任していた。 ただでさえ父母ともに大きめの家系の速生が、バスケというスポーツに精を出すことで背が伸びるのは必然と思えた。 ユニフォームの上にジャージを羽織った、大きな背中を夕人は見つめた。 ーーー相変わらず、速生は凄いな。 二人が出会ってからもうじき三年という月日が経とうとしていた。 身体が成長し、周りの環境や、付き合う人々が変わって行ってもーー… 自分たちは何も変わっていないんだと、そう思っていた。 どれだけ忙しくても、時間が合わなくても。 登下校を一緒にするため、早く準備したり待ちぼうけを食らったり……用事を見つけては一緒に出かけようと誘う。 どちらからともなく、それはもうお互いにとって当たり前のことで……この関係がずっと続いていくことに、疑問など持ったことはなかった。 ーーー知ってるんだよ。 本当は……俺と一緒に帰るためにわざと部活の練習早く終わらせたりしてることも。 ーーーバスケ部の部長の癖して…そんな理由で練習早く切り上げたり、職権濫用じゃないか……キャプテン失格だ。 だけど。 それを知ってて何も言わない俺は……… ーーー速生と、少しでも一緒にいたいって気持ちがあるから……、だから、黙ってる俺は? 「人のこと言えないな……」 小さく呟いた夕人の様子を、速生は不思議そうに見る。

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