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ふたりの未来 2-3

バス停に着いた二人は,誰もいないベンチに座った。 「夕人、職員室ーーー…何の話だった?」 速生がずっと気になっていたことを切り出した。 ーーああ、と相槌を打つ。 「C大への願書提出の最終確認。特に、大した話じゃなかったよ」 「そう……か。 あのさ、夕人…………。夕人は、もう、本当に決めてるんだよな? ーーー俺と、同じ大学に行くって」 真剣な顔で夕人の目を見る速生は、どこか、何か言いたげに、だけど、訊きたくないー……そんな表情で、夕人の返答を待った。 「うん……そうだよ。 ーーーーもう、決まったことだから」 夕人は静かに答えた。 そして、かたく口をつぐむ。“それ以上は何もきかないで”と、声が聞こえてくるような表情で。 「そっか、わかった。 ま、夕人なら余裕だよな〜〜頑張れよ?」 「そんなこと言って……速生だってちゃんと勉強してないと落ちるかもよ? って言っても、テスト全科免除なわけじゃ無いんだろ?」 「げ、痛いとこつくね〜〜〜………」 速生は、バスケ部の主将としての功績を讃えられ、C大からスポーツ推薦のオファーがかかっており、このまま行けば合格はほぼ間違いないと言われていた。 ーーー県内のC大なら、自宅からでも通学できる。 この、今の自分の周りの環境が、そんなに変わることはない。 そのことを一番の理由に、速生はC大を受けることを決めた。 そして、その後、夕人から言われた一言。 『俺も、C大受けるんだ。』 心底驚いた。 突然言われた、夕人の進路……。 こんなにも、今までに評価され数々の功績を残してきた夕人が、美術科の無いC大へ進学するーーー? 『もう、決めてるから』 そう一言だけ放った夕人のその顔からは,確たる決意が感じられた。 “本当にいいのか?” そう言おうかと、速生は迷った。 もし、夕人が美大へ進学するならーー…きっと夕人は東京へ戻り、自分たちは、離れ離れになる。 そんなの嫌だーーー、絶対に………。 大学は違ったとしても、せめて、近くにいたい。 いつでも会える距離でーーー…健気で、不安がりで、それでいて強がりな夕人の、そばにいたい。 ずっと、夕人を見ていたい。 だけど……こんなのは、ただの、エゴだとわかっている。 夕人の未来を思うなら、本当に心から思うのならーー…背中を押すことが、自分の使命なのではないか? ーーーわかっていても、言えなかった。 自分と同じ大学へ進学するという夕人の決意が、何よりも嬉しくて。 もしかしたら、少しでも……夕人は、自分と同じ気持ちでいてくれているのかもしれないと、胸が熱くなった。 (………俺は、ダメなやつだなーーーー。 夕人、ごめんーーー…) だけど、これからも、ずっと一緒にいられるのなら……… きっと、何だってできる。 そう信じていた。

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