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ふたりの未来 2-2
ーーーダンッダン、ダンダンッ
「はい、パス!ーーそこっ!そこでクロスステップ!」
一年生のバスケ部員数人がドリブルをする音が響き渡る。
速生は一人一人と交代ずつボールのパスを交わし、足の動きや体の使い方を細かく指導する。
キュキュキュ、と激しく体育館の床にシューズを踏みしめる音。
「ーーここで止まって、リバース!そこからターンな!ドライブは……」
ーーー速生、後輩に教えてるんだな………キャプテンかーーー
体育館の入り口で中を覗く夕人は、ただ静かに、気付かれないように、速生のその練習する姿を眺めた。
後輩たちに教えながら素早くドリブルを打ちステップを踏むその姿は、まるで、知らない人のように見えてーーー…
ーーー何だよ。なんか、普通に…カッコいいじゃん………
まったくと言っていいほどスポーツに興味のない夕人でも、その頼もしい背中は……思わず見とれてしまうほどで。
声をかけるのも忘れて、静かに立ち止まったまま、その姿を眺めていた。
「……あっ!相模さん!お疲れ様でーす!」
一年生の1人が夕人の姿に気づき、声をかけた。
「え…………?」
ーーあ、やばっ…見てたのバレた……?
速生はその声に振り向くと、夕人の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。
「……夕人、いたんだーー。
よし、じゃあ今日はここまでな、お疲れーー!」
「ありがとうございましたーーっ!!」
解散を言い渡された一年生たちは、帰り支度をして足早に体育館を出て行く。
すれ違う際、夕人に向かって全員が「相模さん、お疲れ様です!」とお辞儀をして声をかけていた。
「あっ、ど、どうも…………?」
バスケットボールを倉庫に片付けて荷物を持った速生が夕人のそばに駆け寄る。
「わり、待たせた?なんか教え始めたら、楽しくなっちゃって。今年の一年、みんなレベル高いんだよな」
「へぇ………。あのさ、運動部ですらない三年の俺は完全にアウェイのはずなのに……なんで一年のみんな、こんなに挨拶してくれんの?」
歩きながら問いかける。クールで比較的上下関係を気にしない文化部とは、えらい違いだと思った。
運動部は挨拶をはじめ、目上の先輩への対する礼儀を大切にしていて、きちんと教えられているということがよくわかる。
「え?そりゃあ……夕人、有名人だし……。あと、あいつらからしたら、夕人は……俺の相方ってイメージなんじゃね?」
「あ、相方ぁ?」
いや芸人コンビかよ、と夕人は吹き出した。
「じゃ、何だよ?これだけ毎日一緒にいるのに……他に例えようがないじゃん」
「んーーー……やっぱりそこは、マブダチ?」
「ははっ」
夕人からの意外な言葉に速生も、それ、懐かしいやつだな、と笑った。
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