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交わされるきみへの想い 1-1

翌朝。夕人は脚の筋肉痛を理由に学校を欠席すると母に伝え、部屋の中、静かに布団にくるまれていた。 ーーーコンコン 「夕人?高校に欠席連絡しといたわよ。大丈夫なの?そんなに痛くなるほど、一体どんな運動したのよ……?」 母はドア越しに夕人にたずねてから、「まあ、普段休まずにきちんと行ってるんだし今日くらいはゆっくりしなさいね」と、優しい言葉をかけて、階段を降りていく。 「…ありがと…………」 今日学校へ行かなかったのには、本当は、別の理由があった。 行かなかったのではなく、行けなかった、という方が正しいだろうか。 ーーー俺は、どんな顔して、速生に会えばいいんだ……? 気まずいなんて、そんなレベルの話ではない。 正直、昨日のあの出来事は本当は夢だったのではないかと、未だに思うほど、実感がない。 だけど、ふと思い出す。 あの時の、速生の言葉。 後ろから抱きしめられた感触。 エタノールのような独特な香りの立ち込める病室で、近づき、触れそうになった唇。 ーーー夢なんかじゃない。 昨夜から、ずっと考えていた。悩み続けたせいでほとんどと言っていいほど眠れず、結局、何の答えも見出せないまま、夕人は朝を迎えた。 ベッドの上で、時計に目をやる。  AM7:40……… いつもなら、とっくの昔に、速生が……朝に弱い自分を起こしに来ているはずだ。 朝練で早朝に家を出たとしても、必ずメッセージを送ってくる。 しつこいくらいに、何度もレスを返しながら。 うざったい,なんて言いながらーーー…本当は、嬉しかった。 毎日のように気にかけてくれる速生の存在は、とても大きく……自分の中で、かけがえのない支えとなっていた。 速生のことを、大切に思う気持ち。 そばにいて、安心する。心から信頼していて、何だって言い合える。 離れたくない、と思うーーーー。 だけどそれは、果たして、どういう感情? この気持ちは、胸に込み上げる想いは、どこからきて…一体どこへ向かうものなのか。 結局。自分で自分のことが、わからない。 夕人は寝返りを打った。 本当に病欠以外で学校を休んだのは初めてで、 罪悪感に、謎の背徳感ーーー…。 そわそわしてしまい、とりあえず、水でも飲みに降りようか、とベッドから降りて自室のドアノブに手をかけた時だった。

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