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交わされるきみへの想い 1-2

一階(した)から、母が話す声が聞こえる。 「ーー…ええ、“脚が痛くて休む”って…どんなすごい運動したのかしらね? ーーーあら、速生くん……その足,どうしたの?」 ーーーー! 速生!?なんで…学校行ってるはずじゃ……? 「ーーいやー…ちょっと、この足、捻挫で……病院行ってから、昼から行こうかなと思っててーー……あの、ちょっと上がっていいっすか……?」 どことなくよそよそしい速生の物言いに夕人の母は“いつもは聞かずに上がってるのに?”と不思議に思いつつ…… 「ーー助かるわ、様子見てあげてくれる?私、これから仕事の打ち合わせで出かけるから……ゆっくりして行ってねーー…」 ーーーガチャ,バタン…… 母が玄関を出ていく音。 その少し後に、躊躇うような足取りで、 ーータン、タン、タン、タン… 階段をゆっくりと、上がる音が聞こえてくる。 ーーーえっ、こ、こっち来る! どうしよう!?まだ、心の準備が………! 夕人は慌ててベッドに戻り、布団の中に潜り込んだ。 『ーーーコンコン…』 不自然に響く、夕人の部屋のドアのノック音。 「ーーー夕人……? 起きてるか?……入ってもいい………?」 ーーー今まで、ノックはおろか、入室の許可なんて聞いてきたことすら無いくせに……… こんな時に限って、白々しいやつ……… 「………………」 『ガチャッ……』 「夕人……………?」 速生が部屋に入ってくる気配を感じて、夕人はただ静かに、息を殺して……この場をどう切り抜けたらいいか考えるが、何も思いつかない。 ーーー“あ、おはよ。”と、あたかも今目覚めたかのように、布団から出てしまおうか? 無理だ。   ここまできて、いつもとまったく違う態度の速生を見て……何も無かったかのように普通に接することなんて、できない。 狸寝入りを決め込むことにした夕人は、布団にくるまり静かに沈黙していた。

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