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4.キスで隠された憂虞

「この曲……有名だよな。 古い映画の主題歌ーーー…速生、観たことある?」 夕人が体育館から漏れてくるボーカルの美しい歌声に耳を傾けながら速生に問いかけた。 ーーーーーザァッ 強い北風が吹く。 秋終わりの茶色い木の葉が舞い散り、体育館裏に佇む二人の髪をなびかせる。 ふと隣に目を向けようとすると、夕焼けに照らされた速生の影が、夕人の身体を上から覆った。 ーーーーチュ…… 速生にくちづけられていた。 優しく、唇が触れるだけのキス。 無言のままーー……。 まるで、一瞬時が止まったかのように感じた。 何も言わない速生は、夕人の、その先の反応を窺うようだった。 まるで試すかのように、不安に満ちた瞳で。 「ーー………なっ……、あっ!お、お前っ何してっ!?」 すぐさま顔を赤くして口元を手の甲で押さえ、まわりをきょろきょろと気にする夕人の反応に、速生は思わず、ほっとしてしまう。 「バカ!こんなとこで、誰かに見られてたらどうすんだ! このエロ速生!!」 (ーーー…良かった、いつもの夕人だ…) 「ーーー…大丈夫だって。別に、俺は見られても……」 「だからそういう問題じゃ……っ!」   二人は気付いていなかった。 ほかに誰もいないと思った体育館裏で触れ合う瞬間の、そのキスシーン…… ある一人の生徒からの視線にーーー。

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