17 / 63
第17話
その日、帰宅すると蒼空が出迎えてくれた。
それ自体はいつものことだが、何かを言いたそうにしているように見える。
「ん?どうかした?」
「ちょっと、お話があって……」
「そうなの?何?」
しかし、まだ玄関にいたため蒼空は「ここじゃちょっと」と言い渋った。
「じゃあ、取り敢えず座ってからにしようか」
三笠がそう言うと、ホッとした様子で蒼空が頷いた。
今のダイニングテーブルに向かい合って座り、仕切り直す。
「どうしたの?何かあった?」
「あの……俺、仕事見つけたんです。コンビニのバイトですけど」
「え?あ、あぁ。そうなんだ。どこの店舗?」
確かに蒼空は仕事をすると言っていたが、突然の報告に意表を突かれた。
「交番を曲がったところにあるコンビニです。通いやすいかと思って……」
「あ、あそこか。良かったね、決まって。頑張れよ」
つい手が出て蒼空の頭をポンポンしそうになったが、思い止まり三笠は手を引っ込める。
「はい。ありがとうございます。それで……」
「ん?どうした?」
「仕事落ち着いたらここから出ていきますから、もう少しだけ待ってください」
「あ、いや。ずっと居てくれていいって言っただろ?嫌かな、ここに住むの」
「そうじゃないんですけど……やっぱり、誰かの世話になるのは悪くて……」
「全然気にしなくて良いよ!俺は君がいてくれて楽しいんだ。ルームシェアだと思ってさ、これからも気軽にいてくれよ」
「三笠さん……」
「ていうか……俺が、君といたいんだ」
顔が熱くなるのが分かった。一体自分は何を言っているんだろう。
「そこまで言ってもらえるのは、有難いです。じゃあ、暫くは置いてもらってもいいですか?」
「もちろん」
三笠が笑顔で頷くと、蒼空も笑顔を見せてくれた。三笠は、蒼空とこれからも長く一緒にいたいと思った。
次の日から、蒼空はバイトに出勤し始めた。日中のシフトで、夕方の五時までの勤務だという。そうすれば、三笠の帰りを料理を作って待っていられるからともいう。付き合っているわけでもないのに、まるで共働き夫婦みたいだと思ってしまう。
働き始めた蒼空は、楽しそうだ。職場が合っているのかもしれない。それはそれで良いことだと、三笠は素直に思う。それ以外は、特に気には留めていなかった。
しかし、そんな三笠にも変化が訪れる。
ともだちにシェアしよう!