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第60話

「三笠ちゃんたち、絶対にまた来てね」  しばらく飲んだ後、三笠と蒼空は帰ることにした。 「はい。時間見つけてまた来ます。ママもそれまで元気で」 「約束よ!ワタシは元気だけが取柄だから大丈夫よ」  楽しそうにルリ子ママは笑った。そして二人は会釈をして帰途に着いた。  一カ月後の休日に、ついに蒼空が三笠の家で再び住み始めた。 「何か、三笠さんとまた暮らすのドキドキします」  荷物を大方片付け終わった後で、蒼空が顔を少し赤らめながら呟く。 「そう?俺は凄くワクワクしてるよ」 「そうですか?」 「うん!前一緒に住んでいた頃も、とても楽しかったから」  三笠が微笑むと、蒼空もとても嬉しそうな笑顔を見せた。もうこの笑顔を失いたくない。永遠に守りたいと三笠は心から願った。 「そうだ。今日は俺が晩ご飯を用意するよ」 「え、いいんですか?」  以前は蒼空がつくってくれることも多かったためか、彼は少し驚いた様子だ。 「前は君に頼ってた部分があるけれど、俺も料理してるんだよ」  三笠が微笑むと、蒼空は恐縮しきりの様子で「じゃ、お願いします」と呟いた。三笠はこの日のために材料を用意しており、ハンバーグをつくった。自分も食べたかったのもあるが、前に蒼空が好きだと言っていたからだ。 ハンバーグを捏ねたり焼いたりしていると、ほんわりと甘い気持ちが三笠の胸を満たす。これから再び始まる蒼空との暮らしに希望しかなかった。 「うわぁ」  食卓に置かれた料理を見て、蒼空が目を輝かせる。 「口に合うか分からないけど……」  三笠は何だか恥ずかしくなってしまう。 「そんな。好きなハンバーグ、嬉しいです」 「そ、そうかな。じゃ、食べようか」 「はい」  席に着き、二人で乾杯する。用意したのは少し高めのシャンパンだ。 「これからもよろしく」 「こちらこそ、よろしくお願いします」  未だにプライベートでも敬語を使う蒼空だが、そこも彼らしくて良いと三笠は思っている。  ハンバーグを一口食べた蒼空は、ますます幸せそうな表情を見せた、 「凄く美味しいです!絶品!」  いつもに増してテンションの高い蒼空に、三笠は少し気圧されそうになる。しかし、蒼空のこういう一面が見れたのは嬉しい。 「そ、そうかな?」  正直、美味しいと言ってもらえるか不安もあったものの、どうやら杞憂に終わりそうだ。三笠は胸を撫で下ろした。 「天才ですね!三笠さん」  からかっているわけでもなく、真面目な顔で言われ三笠は顔が赤くなってしまった。 「い、いや。天才だなんて褒め過ぎだよ。ハハ」 「そんなことないです!三笠さんの他の料理も食べてみたいです」 「そ、そうか?じゃ、今度つくってご馳走するよ」  三笠の言葉に、蒼空の顔には満面の笑みが広がった。蒼空の幸せは自分の幸せでもあると、三笠はつくづく思う。愛する人が幸せなら、自分も幸せなのだと。

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