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第81話
「明日は早起きしないとだね。」
「だな。」
今度はオレがグラスを揺らす。
揺れる液体ではなくて、そのイニシャルを眺めながら。
たったの数分で、
互いの一生を決める、すべての確認が終わったのだと二人で思う。
オレははぁ・・っともう一度息を吐くと、
何も考えずにそのグラスの液体を飲み干した。
そうして次の瞬間、なにげなく蓮ちゃんと視線が絡む。
少しの間。
それは数秒間。
けれどもやたらと長く感じる数秒間だった。
息を吸った。
そうして、身体中がバクバクしてることが
イヤって程わかった。
まるでスローモーションみたいに蓮ちゃんのキレイな顔が近づいて、
バクバクは遠のいてオトのない世界になると
ゆっくり瞼を閉じて互いの唇が重なる。
そのまま
後ろへ押し倒されてしまえばもう
世界は上下さかさまになって・・・
「はぁ・・・」
なんというか、すべてが丸く収まった。
蓮ちゃんが少し離れると、そのおっきな目がオレを見る。
身体がキュウっとする。
とたん、消えたはずのバクバクがまた、聞こえ出す。
言葉じゃないモノで互いに気持ちを確認すると、
自然と唇を少しだけ開いてまた、ゆっくりと重ねた。
柔らかい、トクベツなその感触と
いつもより丁寧に、明らかに慈しむようなそんなキスに・・・
ああもう・・・
これは誓いのキスなんだ。
頭の中に牧師か神父か・・・
とにかく
ーー汝、病めるときも健やかなるときもーー
そんなオトが流れてくる。
中学2年。
はじめて恋をした。
相手は男だった。
あれからずっと恋をしていた。
「はぁっ・・・」
見つめ合えば二人して、思わず顔がほころんだ。
相変わらず言葉なんてない。
でもそれでいい。
そういう蓮ちゃんを好きになったのだから。
「バングルは?」
思わず笑う。
「ちゃんといつもしてるよ。」
「毎日?」
「毎日。」
言葉が無くたってわかる。
わかってしまう。
いま、すべてがあることを。
恋をして、それが成就して
蓮ちゃんに完璧に堕ちてしまったなら・・・
あとはもう素直に正直になることくらいしか、
オレに出来ることなんてない。
蓮ちゃんの手のひらが
オレの着ているパジャマを脱がそうとしてる。
だからオレも
蓮ちゃんの着てるスエットを脱がしにかかる。
床でスるのは何度目だろう・・・
明日の引っ越しのことを考えると
背中が痛くなるのはイヤだな・・・なんてことを
キスをして抱き合いながらも冷静に考えている。
すると、
上半身裸の蓮ちゃんはさりげなく、
オレの手首を引っ張って身体を持ち上げると、
ソファの上に横にさせた。
「明日は早起きしなきゃだよ。」
「まぁな。でもコレとソレとは別。」
もうずっとずっと、蓮ちゃんだけだった。
気づけばもうずいぶん長く、
この男のことだけを想って生きてきていたのだった。
そうしてオレは相も変わらず、いまも。
きっとこの先のずっとずっと・・・この一生を。
いままさに、
男のオレのカラダをアツく見つめて興奮を隠さない、
男らしい顔するこの男に
魅了され、
翻弄され、
引きずられながら、
自ら望んで、ついていくのだろう。
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