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第2話

※※※※※※※ 「ガット、…すみませんでした」 「はぁ、ほんとにな。魔力回復したばっかだろうが。まさかここに来てすぐ担ぐ羽目になるとは思わなかったぜ?」  ハの字の眉毛を更に下げ、猫背をさらに屈めてフィオレオが申し訳なさそうに告げながら大通りをトボトボと歩く。その隣でガットは盛大な溜め息を吐き、フィオレオのこめかみに向かって軽くデコピンをして小突いた。「いたっ」とフィオレオが顔をしかめる。 「たく、体調わりぃんだったら早めに言えよ?」 「ヴ…はい…」  体調というよりも恋の病なのだが、なぜかガットは色には敏感なのに恋には鈍感で、フィオレオの想いに気付いていない。というか見事にスルーされている。そして、フィオレオの力が弱いために、ガットが怪我をした時には体を繋げて魔力の詰まった体液を流し込むことで回復する方法を取っているが、怪我をしていなくてもガットの欲望の赴くままにほぼ毎晩フィオレオの精が尽き果てるまで搾り取られる。そうやって、ガットがフィオレオをヨロヨロにすることには無頓着なのに、フィオレオが自らを傷つけたり体調が芳しくなかったりすることには頓着するのだ。 そのためか、魔法協会で倒れて宿に運ばれた昨晩、その日は体を繋げることがなかった。  どうやら純粋に心配をしているガットにフィオレオは居たたまれなくなり、フードをさらに深く被る。 そうこうしている内に、綺麗なレンガ造りの道路を歩いていると目的の場所に2人は辿り着いた。 「ここ、ですかね」 「だな」  道路と同じような赤っぽい色をしたレンガが積まれた2階建てだった。ドーム状の珍しい形であったが、『ラポル』と書かれた看板のすぐ横に『人と人を繋ぐラポルへようこそ。まあるく繋がりましょう』と書かれていて、建物の形と施設内容がリンクしているのだと分かる。  『人と人を繋ぐ』。つまりここは、まだパーティーに入っていない者達を紹介し、加入できるようにするための施設であった。  自動ドアを通りすぎると施設の中に人は多く、待合所と思われる椅子はほぼ埋まっていた。おそらくヴァイス協会から送られてきた手紙を見て、条件に合っていなかったパーティー、もしくは個人で動いていた者達が慌てて来たのだろう。  ガット達も例に漏れずその類いなのだが、どうにも時間がかかりそうな様子にガットの顔が曇る。めんどくせぇとその顔が物語っていた。 「あー…フィオ。お前てきとーにレベル低そうなやつ見繕っといてくんねぇ?」 「えぇ!?」 「リスト見るまでに時間かかっだろ、これ。俺、その辺ふらついてくるわ」 「いやぁ…さすがに、私一人では決められないですよ…。あ、ちょっと…ガット!?」  くるりと玄関の方へ翻したガットの腕をガシッと掴み、フィオレオが制止しようとする。  昨日卒倒するほど悩んだ新メンバー加入だが、ヴァイス協会からの命令ならば従うしかなく、フィオレオは泣く泣く自分を納得させたのだ。そんな中、パーティーの未来を一人で決めるには責任が重大すぎると必死にガットを引き留めようとするが、ひ弱なフィオレオはずるずると引きずられるだけだ。  そこにちょうど運良く二人分の席が空いたのを視界の端に見つけて、フィオレオがそこを指差す。 「あ、ガット!空きましたよ、席。あそこに座りましょう!」 「ん?…あ」 「っうわわ!」 「わっ」  フィオレオの言葉にガットが立ち止まる。必死に引き留めていたのが仇となって、後ろへフィオレオがよろけた。その瞬間、ドンッと人とぶつかり、尻餅をつく。 「いたた…っ」 「なにやってんだ、お前」 「ガットが急に止まるからですよぉ…、ってスミマセン!大丈夫ですか?」  ガットが呆れ顔で手を差し伸べてくる。その手を掴み起き上がりながらハッと気付いて、目の前で同じ様に尻餅をついた相手へ声をかけた。  ぶつかってしまった相手は髪が長く小柄で、大きな目をしており、可愛らしい少女のようだった。 (わ、すごい可愛らしい子だなぁ。…剣士なんだ)  少女へ手を差し伸べる。その背中には、一見して似つかわしくない、細みの剣があった。  少女はフィオレオの手を握るとニコッと笑いながら立ち上がる。 「あ、いえ。ボクの方こそ、スミマセンでした」 (あれ?)  その声は思ったよりもハスキーボイスで、さらに一人称が『ボク』なことで違和感を覚え、フィオレオは首をかしげた。 「えっ…と、怪我とか大丈夫ですか?」 「このくらい大丈夫ですよ、ありがとうございます。お兄さん、優しいんですね」  よくよく観察してみれば、その少女の手は節が多くて骨張っており、少女が喋る度に太い喉仏が上下していた。  どうやら少女ではなく少年らしい。しかし、パーティーを組むには成人をしていないといけず、成人していない少年が一人でいるには、この施設はおかしなところで、キョロキョロと周りを見てから少年の顔の位置まで背を屈めて問いかけた。 「もしかして、君、…迷子かな?」 キョトンと大きな瞳が丸くなる。 その反応に、変なことを言ったかとフィオレオが焦っていると少し遅れて、その少年が笑い出した。 「…ぷっ、ははっ、ボク、こう見えてもう成人してますよ」 「え!!?わ、わわ、す、すすすスミマセンっっ!!!」 「いいですよ、よく女の子とも間違われるし。気にしてないです」  なんて失礼な勘違いをしてしまったのだろうとペコペコと高速で頭を下げるが、少年ではなく青年は気にした様子なく人好きのする笑みを浮かべていた。なんていい人だろうとフィオレオは心の中で安堵する。 「ところで、お兄さん。一緒にいたイケメンさんが消えてるけど、いいの?」 「…へ?…あああ!!?ガットっっっ!!?」  促されて振り返ると、そこにいたはずのガットはいない。周囲にも目をやるがざわざわと人が行き交ってる中に彼らしき姿はなかった。すっかり目の前の青年にフィオレオが気を取られている内に、これ幸いにとばかりにガットは悠々と施設を出ていってしまっていたのだ。  フィオレオはガックシと頭を項垂れる。自由な彼らしいと言えば、彼らしい。とは言え、やはり自分一人で新しいパーティーメンバーを見つけるのは気が引けて、フィオレオがどうしようかと思案しているとくいっと服の袖を引っ張られた。 「なんかよく分かんないけど、お兄さん達もパーティーメンバーを探しに来たんだよね?混んでて時間かかりそうだし、順番来るまで一緒に待ちませんか?」 そう言って、青年が二人分の椅子を指差す。 とりあえず折角来たのだし、今日決めなくてもパーティーに入っていない人達のリストを見といて、あとでガットと話し合おうかなと思い直し、フィオレオはその提案に乗ることにした。

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