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第3話

「あらためまして。ロッソって言います。よろしく」 青年ロッソが快活そうな笑みと共に手を差し出す。 「あ、…フィオレオです。よろしくお願いします」  それとは対照的に長身を殺す猫背で、やや陰鬱な雰囲気を放ちながらフィオレオはフードを下ろした姿でペコッと頭を下げ、椅子に横並びになったロッソの手を握り返した。   「あの…さっきはほんと、スミマセンでした。すごく失礼なことを…」 「はは、大丈夫ですって。ボク、160センチしかないし、顔もどっちかっていうと童顔だししかたないですよ。ほんとはもっと筋肉つけてかっこよくなりたいんですけどね」  羽織っているマントを避けて、黒の長袖を捲って腕を出すと二の腕をぐっと盛り上げて見せる。フィオレオよりは筋肉があったが、剣士としては確かにかなり細身の方であった。 「フィオレオさん達はいつからこの街にいるんですか?ボクはまだ来たばかりでよく分からなくて」 「あ、私達も昨日来たばかりなんです」 「え?ボクも昨日ですよ。偶然だ。あ、じゃあ、昨日、中央広場でイベントしてたの知ってます?」 「はい、楽奏隊の演奏とかですよね?」 「そうそう、すっごい長い筒みたいな楽器とか吹いてて」 「え?ちょうどその楽器の時、私達も広場にいましたよ」 「ほんと?じゃあボク達、実は昨日既に会ってるんですね」  ロッソはとても人懐っこい性格なのか、人好きのする笑みを浮かべてとても心地よい会話をする。人見知りのフィオレオも自然と肩の力を抜いて話を続けることができた。 「ロッソさんは…」 「ロッソ、でいいですよ。堅苦しいのは苦手だし、多分フィオレオさんの方が年上ですよね?」 「…えぇっと…」    そう言われてもフィオレオはすぐに返事ができなかった。なぜならロッソの対人スキルが高すぎて、自分の方が年齢を重ねているんだという自信が持てなかったからだ。  自分より大分年下にも見え、大分年上にも感じる。正直、ロッソは年齢も性別も不詳だ。  失礼かもしれないと思いつつどうしても気になってしまい、後頭部に手を置いて身を小さくしながらロッソに確認する。 「あの…私は今年21になるんですが…ロッソ… さんは?」 「あ、やっぱりお兄さんだ。実はボク…今年18になったばかりなんですよ」 「えっ…?」  ロッソは眉尻を下げながら少し答えづらそうに言った。それもそのはずで、案の定、フィオレオも驚いて目を丸くする。  18才とはこの世界での成人を意味する。ガットやフィオレオ、ロッソ達のような勇者や魔法使い、剣士などは、専門の訓練校で技術や座学を学び、成人と共に卒業して世界で活躍する。その際、年に一度、ヴァイス協会主催の成人お披露目会というものがあり、既に世界で活躍している先輩達が新人をパーティーに入れようとスカウトする日なのだ。  フィオレオも成人お披露目会の時にガットに声をかけられた。というか、レベルが低すぎてガットにしか声をかけてもらえなかったのだが。しかし、そのフィオレオですら声をかけられパーティーに所属できるので、殆どの新人はそのお披露目会でどこかのパーティーメンバーとなるのだ。  自分よりも要領も人当たりも良さそうなロッソに声がかからないとは到底思えなくて、フィオレオは首を傾げた。 「たしか…今年のお披露目会は半年前でしたよね?もしかして、ロッソさんも2人パーティーなんですか?」 思い当たった可能性に、キョロキョロと周りを見やる。ロッソは首を横に振った。 「…残念ながら、1人です。ちょっと事情があって…お披露目会には出なかったんだよね」 なるほど。それなら成人お披露目会でパーティーに所属しなかったのも納得できる。 「じゃあ、この半年は1人で?」 「そう。けど、1人だと任務のレベルが低くて報酬が少ないし…早く所属したかったんですけど…ボク、レベルがすごく低くて…なかなかマッチしなくて…ずっと各地のラポルに行ってはパーティー探しをしてるんです」 なんだか既視感のある内容だ。 「そうだったんですか…大変でしたね…」  フィオレオとガットのパーティーもレベルが低くて任務の報酬が少ないため、万年金欠状態だ。成人したてでどこにも所属せずにいるとは、フィオレオ達よりも多分カツカツの生活をしているんだろうと心が痛くなった。さらに、レベルが低くて声がかからない辛さもよく分かるため、ロッソに同情せざるを得ない。 「私もレベルが低くて、お披露目会ではなかなか声をかけてもらえなかったので…気持ちはよく分かります…」 「フィオレオさんも?じゃあ、低レベルお仲間だ。なんちゃって」 「ふふ、そうですね。ロッソさんみたいな人とお仲間なら嬉しいです」 話している内容は明るいものではなかったが、2人の間には和やかな雰囲気が漂う。不意にロッソが大きな瞳でフィオレオをじっと見つめた。 「…フィオレオさんって、優しいですね?」 「え?そうですか?」  優しいよりもなよなよしてるとか、弱々しいとかならよく言われるため、フィオレオにはピンと来なかった。すると、ロッソがフィオレオの片手を両手でぎゅっと握りしめてきた。  突然のことにフィオレオは驚いて、目を丸くして瞬きを繰り返す。 「…さっきのイケメンさんって剣士じゃないですよね?」 「え?あ、はい。ガットは勇者で…」 「そしたら、ダメ元で聞くんですけど…フィオレオさんのところに…ボクってどうですか?」 「…?」 「レベル低いけど、これから頑張ってレベルあげるし…、なによりフィオレオさんみたいな優しい人と一緒に旅したいです」 「…ロッソさん…」  ロッソの言いたいことが分かり、ふとフィオレオも思案する。  たしかに、誰かメンバーを入れなくてはいけないなら一緒にいて心地よい人がいい。さらに、ガットからの要望でレベルが低くなくてはならない。そして、できたらガットに恋をしない…人はいないだろうから、なるべくガットの好みから外れた人を入れたい。  ガットの好みは筋肉質で男らしい人だったと思い起こすと目の前のロッソは、性格はこざっぱりしているが見た目は少女のようで、おそらくガットの好みからは遠い。  なにより、同じような悲しみを経験している後輩を助けてやりたい気持ちにもなっていて、フィオレオはもう片方の手でがっちりとロッソの手を覆った。 「ロッソさん…っっ!よろしくお願いします!!」

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