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第4話
善は急げ、とどこかの国の諺にあるように、早速フィオレオはガットにロッソを紹介しようと思った。しかし、ラポルの周りのマーケットや店を探してもガットはいなかった。
とりあえず宿泊しているホテルに帰ってみると部屋の中から髪の乱れたガットが出てきた。
「…誰?」
「ロッソさんです」
「はじめまして、ロッソです」
はたして、フィオレオ達の泊まっている小さなホテルの部屋の前で、3人はご対面となった。さすがにガットも意味が分からないようで、眉間にシワを寄せてロッソを見てからフィオレオに説明するよう視線を送る。そうでなくても部屋でうたた寝をしていたらしく、寝起きで機嫌が悪そうだ。気怠げにドアの縁に肩を寄せて欠伸をしている。
「あの、さっきラポルでぶつかった人です」
フィオレオの短すぎる説明を聞きながらガットがロッソの顔をじーっと見る。不意に口許が歪み、ニヤニヤと楽しそうな表情になった。
「…、へぇ…そういう?」
「…?そういう…?」
「お前もすみに置けないな、フィオ。運命的な出会いじゃないか。お似合いだぜ?」
ポンッと肩に手を置かれる。
「…え?あっ!!いやいやいや、違いますよ、ガット?!私はガッ…、いや、そもそもロッソさんは成人した男性です!!!」
どうやらフィオレオがロッソをナンパ、もしくはロッソがフィオレオをナンパしたと勘違いしたようだ。そんな勘違いで好きな人から楽しそうにされるのはものすごいショックで、危うく勢いに任せて想いを告げそうになる。ぶるぶると頭を左右に振ってから、まずは勘違いを正そうと全力で否定した。
そんな2人のやり取りをロッソはおかしそうに小さく笑ってからガットに片手を差しだし、柔らかな笑みを向けて改めて挨拶をし直した。
「剣士のロッソです。さっきフィオレオさんとお話をしてて、すごく優しくて。まだ成人したばかりだしレベルが低いんですが、フィオレオさんのいるパーティーに是非入りたくて志願しました。ガット…さん、ですよね?お願いします。入れてください!」
「いいぜ」
「「え?」」
あっさりと承諾されて、フィオレオもロッソも唖然としてしまった。ガットが部屋の奥に入っていくとフィオレオもその背を追うように入り、ロッソを招き入れた。
「…いいんですか?なにも聞かないで決めてしまって…」
「なんだよ、拒否されたかったのか?」
「いえ、そんなことはないですけど…」
さすがにもう少し何かしら素性とかを聞いてくるかと思っていたが、ガットは本当に興味がなさそうでマイペースに、ベッドのサイドテーブルに置いてあった瓶に手を伸ばし、直接口を付けて水を飲んだ。潤った唇を親指で雑に拭いながらフィオレオを見る。
「お前が決めてきたんだろ?じゃあ、問題ないだろ」
「っ、…」
フィオレオが息を飲む。ガットにとっては何てことない言葉かもしれないが、信用してもらっているように思えて、フィオレオの心が人知れず踊る。
「それに、どうせ正式メンバーになるには、一指令、一緒にこなさなきゃだしな。さっさと仮で組んで相性みた方がいい。そうだろ?ロッソ」
「…っ、そうですね」
フィオレオの横で2人のやり取りを静観していたロッソにガットは大股で近づき、無遠慮にその細い顎を片手で掴んでくいっと上を向かせた。
ちらりと背中の剣を見てから品定めをするかのように切れ長の瞳がきらりと光る。
「剣士…、ね。ま、もうちょい武骨な男の方が俺の好みだったけどな?」
「が、が、ガッッットっっっ!!!?」
「それか下がデカけりゃそれでもいい、け…ど…」
まさかロッソみたいなタイプもガットの食指が動くのかとフィオレオは慌ててガットの手を掴もうとするが、器用な指先はするりと下に伸びていき、これまた不躾にロッソの股関に触れて固まった。
「…。…イイモン持ってんな?」
「はは、おかげさまで」
ロッソもまさか初対面の相手にあからさまなセクハラを受けるとは思っていなかったのだろう。さすがに困惑した表情だ。しかし、朗らかに笑って大人びた返しをしている。そんな対応の仕方に大人な余裕を感じて完敗しつつ、あのガットが驚くなんてどんな立派なモノなんだろうと、さすがにフィオレオも思わずロッソの股間に視線を向けてしまった。
これはもしや、選択を間違ったかもしれないーーー。
既にロッソに敗北感を覚えながらフィオレオは頭の奥が痛くなった。
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