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第5話

※※※※※※※※ 「ふぅ、気持ちよかったぁ」  フィオレオは濡れた頭を薄いタオルで拭きながら満足げに息を吐いて、ソファの上に座った。  この街は都市部に近いせいか物価が高く、宿泊所もお高めだ。その分、設備は整っており、浴室もシャワーだけでなくバスタブも置いてあってゆっくりと湯船に浸かることができた。  フィオレオと交代で、今はガットが風呂に入っている。 「フィオレオさん、ベッド…本当にいいんですか?」  ロッソが申し訳なさそうに声をかけてきた。 「ロッソさん。もちろん、いいですよ。昨日は野宿だったんでしょう?ベッドで寝た方が絶対疲れも取れやすいですし」 「けど、フィオレオさんのベッドが…。ボクがソファで寝ますよ」  たしかにホテルの設備のソファは二人がけといえ、すくすくと身長だけ伸びたフィオレオにとっては小さかった。   「いいですよ、気にしないでください」 「フィオレオさん…」  ロッソの背に手を置いて、2つ並んであるベッドの片方へ促す。ホテルに備え付けられたシャツワンピースのパジャマを着ているロッソは、まるで小さな女の子のようで、庇護欲をそそられる。  パーティーのリーダーであるガットにお許しをもらった2人は、あの後すぐにヴァイス協会に行ってパーティーの仮契約をしたのだ。これでロッソは、仮とはいえ、ガットとフィオレオの仲間となった。  パーティーは基本、団体行動になる。そのため、宿も同じ場所を取ることが多い。しかし、フィオレオ達が泊まっているホテルは既に満室だった。そのため、暫くロッソには元々泊まっていた宿にいてもらおうとしたところ、「あ、宿とってないんですよ」とあっけらかんと言われ、フィオレオは驚いた。なんと、ロッソは所持金が極僅かで、ここ最近はずっと野宿だったと言う。  それほどまで苦労していたのかと、フィオレオは泣きたくなった。そのため、ホテルにお願いをして、特別にツインの一室を3人で利用することになったのだった(ガットはホテルに言わずに済ませようとしたが、結局バレて怒られた)。  想定以上の人数で部屋を使おうとすると色々と問題が起こる。ベッドの数問題もその一つだったが、苦労を重ねた後輩に心を痛めたフィオレオは、自分の分の設備をロッソに渡したのだった。  ロッソも恐縮しながらフィオレオの好意に甘えることにしたようだ。大人しくベッドの中に収まる。 「…フィオレオさんって、本当にいい人ですよね」 「そうですか?…あんまり言われないので、嬉しいけどなんだか恥ずかしいですね」 はは、と苦笑しながらフィオレオは向かいのガットのベッドに座った。 「そっちの方がびっくりです。フィオレオさんといるとすごい安心できて…なんだかお兄ちゃんっぽいですよね。もしかして、妹とかいますか?」 「え、よく分かりましたね。妹と…兄が2人いますよ」 「お兄さんもいるんだ?」 「はい。兄は2人ともとても優秀で。妹もしっかりしてるので……、落ちこぼれは私だけですけどね」  実家の家族を思い浮かべながら自らの立ち位置も思い出して、自嘲する。 「フィオレオさんみたいな優しいお兄さんとか絶対に自慢ですよ…」 「だと良いんですけど」  卑屈な自分の言葉をポジティブに言い換えてくれるロッソに、なんだか気恥ずかしくなって髪から垂れて頬についた水滴を丁寧に拭ってフィオレオは誤魔化そうとした。 「ところで、ロッソさんの方は?」  話の風向きを変えようとロッソに声をかけるが、その答えは返ってこなかった。 すぅすぅと小さな寝息が聞こえる。  ロッソの大きな瞳は瞼に遮られ、くるっと丸まった長い睫毛が目元で主張していた。随分疲れていたのだろう。  フィオレオは自然と口許に笑みを作り、ロッソの頭を小さな子どもにやるように撫でていた。

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