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第7話

 そんなことを考えながら改めてガットを見ると、出窓を少し開けていた。日中は茹だるような暑さであったが、心地よい夜風が部屋の中に入ってくる。 「風が気持ちいいですねぇ…」 「そうだな…、ふー…」  ガットが外に向かって紫煙を吐き出していた。その姿を見て、2人で旅を始めた頃のガットの姿を思い出す。 「そういえば…タバコ、また始めたんですね?」 「ん?別に禁煙はしてねぇよ?」 「あ、いや、はじめの頃はよく吸ってましたけど、少し前はあまり見かけなくなっていたので」 「…そうか?よく見てんな、お前」 「ええ…まぁ…」  実はガットがタバコを吸っている姿が様になっており、よく見惚れていたとは言えない。  ガットがタバコを吸う時はいつも夜だった。窓辺で月の淡い光に照らされたガットの薄い唇から煙が吐き出されるのが、とても美しく、どこか艶めいていたのだ。 (いつ頃から見なくなったんだろう…?)  フィオレオの知らぬうちに、その姿は成りを潜めていた。しかし、ここ最近はほぼ毎日見ている。ふとテーブルに置かれたタバコのデザインを見ると以前と違うものだと分かる。『カモリン』と書かれていた。  フィオレオは自分がタバコを吸わないのでタバコの種類も知らないし、吸いたくなるタイミングも分からなかった。   「フィオ」  ちょいちょいと指先で呼ばれる。フィオレオは素直にガットの傍に立った。 「なんですか?」 「じゃあ、俺がタバコを吸う時はどんな時か分かるか?」 「え?…うーん、なんでしょう…、って、ゲホゲホッ…ちょっと、ガッ…!?」  首を傾げて思案していると再び見惚れるような綺麗な所作で口から紫煙を吐き出しているが、よりによって顔に吹き掛けられフィオレオが咳き込む。その間に腕を掴まれぐいっと引き寄せられ、互いの鼻先がくっつくほど顔が近くなる。  間近で見るガットの魔法石のように輝く金色の瞳に、フィオレオの意識は吸い込まれそうになった。 「…舐めたり、吸ったりしたい時だよ」  ペロッと舌が顔を出す。唾液のついた赤いそれはとても扇情的で、フィオレオの喉が鳴った。そのまま更に引き寄せられて出窓の出っ張りに座るガットに覆い被さる形で、互いの唇が重なる。  無遠慮な舌先は、防衛する暇も与えずにフィオレオの咥内に入ってきて、宣言通りに上顎や舌の腹をなで回し、舌の先端を甘噛みしては心地よい強さで吸う。 「ぅ…っ」 「ふ、ぁ…ン」  唾液が混ざり合い、互いにゴクリと喉仏を上下させる。タバコのせいかガットの味が違った。ほんのり苦味があり、鼻から燻した果物のような不思議な匂いが抜けていく。  いつもと違う感覚に、更にくらりとくる。 「っはぁ、ガット…っ」  フィオレオも夢中になってキスの合間に掠れた声で名前を呼びながらガットの腰を抱こうとした瞬間、「う~ん」と言う声と共に寝返りをする音が背後から聞こえてきた。  ハッとフィオレオの動きが止まる。途中からすっかり忘れていたが、今、この部屋にはガットとフィオレオ以外にも人がいるんだった。 「んぅ…、フィオ?」    ガットが既に潤んだ瞳でフィオレオを見つめながら、飲み干せなかった唾液が口角から垂れてガットのズボンを濡らす。その光景に下半身が本格的に反応しそうになって、フィオレオは耐えようと顔を歪める。   「ガット、だめです…。ロッソさんが…」 「だから?」 「同じ部屋なんですよ?絶対バレますって」 「だから?」 「…だ、だから?え…バレたらどうするんですか?」 「別にどうもしないだろ?それとも、あいつが別部屋になるまでしないつもりなのか?」 「え、だって、バレたら…その…恥ずかしくないですか?」 「別に?大体同じパーティーになるなら、いずれ分かるだろうし、隠すことじゃないだろ?ほら、それより…早く…フィオ…」  日中は聞かない甘えた声音でガットがねだる。それと同時に後頭部から耳にかけてを擽られて、フィオレオの背筋が甘く震えた。  すっかり流されていたが、フィオレオもさすがに踏ん張る。 「ガット、無理ですって…」 「バレないようにヤルのも、スリルがあって興奮するぜ?」 「そ、うじゃなくて…。大体、今日は怪我してないじゃないですか」  耳朶を擽られながらちゅっちゅっと首筋にキスをされる。白い肌をみるみる赤くしていきながらどうにかガットを諭そうとするが、不意にガットが「くっ」と痛そうに顔を歪めた。 「ガット?大丈夫ですか?」  ガットがフィオレオに触れていない方の指を見せてくる。ガットの長い指先が赤くなっていた。 「火傷、…しちゃったな、フィオ」  どうやらタバコの灰が指先に落ちたらしい。タバコは既に出っ張りで揉み消されていた。  するりとガットのしなやかな腕がフィオレオの体に絡み付いて、体重をかけられる。 「ガット、あぶなっ…っ」 「…怪我したからはやく…フィオのおっきいので…治して?」  バランスを崩してフィオレオが床に倒れるとその上にガットが跨がり、妖艶に笑いながらうっすら反応している股関を撫でてくる。  こうなったらガットが止まらないことも自分が押し通せないことも分かっていたが、それでも羞恥心とロッソにガットの淫靡な姿を知られたくない思いからフィオレオがガットの胸を押す。 「…ぅっ、いや、でも、ガット…っ」 「フィオ」  すると、明瞭な声音で名前を呼ばれ、顎を掴まれた。 「そろそろ黙って…俺だけ見てろ」  逃げることができずに、情欲に揺れながらも強い意思を感じる瞳に捕らえられ、フィオレオの思考も心もガットでいっぱいになる。 「…、…はい」  思わず頷いて、そのまま再び重なってきた唇をフィオレオは受け入れた。

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