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第27話 4回目のキス**
ぼんやりとしたオレンジの光の中、ベッドに腰掛けた東堂は自分のスマホに目を落としている。控えめに言っても、心臓が口から出そうだ。ただ、一人の男が部屋着でベッドに腰掛けているだけ、それだけなのに、クラクラしそうに色っぽい。
体毛薄いんだな、色白いな、肌綺麗だな……、将吾の頭の中で勝手にいろんな言葉が飛び交う。それら全ての上に、「触りたい」がドドンと鎮座した。
欲求のままに、手を伸ばす。
そっとスマホを取り上げて、ベッドサイドに置いた。隣に腰掛けて、体を傾け、東堂の顔から眼鏡を外す。それもスマホの隣に置き、同時にもう片方の手を東堂の頭の後ろに回して引き寄せて、唇を塞いだ。二人分の体重を受けて微かに軋むベッドの音さえ、どこか淫靡な響きに聞こえる。
「……ん、ッふ……」
四回目となるそれは、これまでのどれより官能的で、激しかった。
後先を考えなかった一回目、我を忘れて仕掛けた二回目、スイッチが入って貪ったけれどお預けを余儀なくされた三回目。そのどれとも明らかに違うのは、もうこれ以上この行為を邪魔するものはないと、お互いが分かっていること。気持ちを重ねてする行為は、今から始まる長い夜の、入り口となるもの。
もう、焦る必要もない。ゆっくりと高めあうように、舌を絡ませる。時折苦しげにまつ毛を震わせる東堂の目も、将吾と同じ欲に煌めいている。ただ黙って受け入れるだけではない、同じ欲を貪る獣の気配があった。
いつしか、お互いの体を手が這い始める。ただ触るのとは違う、明らかに性的な意味合いを帯びた動き。どちらのものともつかない、荒く息を吐く音が寝室に充満する。否応無しに熱が溜まっていく。東堂の指に煽られ、将吾はするりとTシャツの裾から中へ手を差し入れた。
「……ッ、ぁ……」
首筋に口づけを落とし、薄い脇腹から上へと肌をなぞれば、頭上から小さく声が降る。その声だけで、決して誇張ではなく達してしまいそうになるほど、刺激が強かった。熱に酔い痴れる東堂の顔は、こうなる前に将吾が知っていたのとはまるで別人のようだ。潤んだ瞳を情欲にぎらつかせ、下手をすればこちらが取って食われそうな気配すらある。
「ッ、すげ、エロ……」
将吾は思わずうめいた。
食うか、食われるか。舌なめずりしたくなるような、極上の獲物。
——こりゃ、ハマるわけだ……。
東堂に執着していたかつての恋敵を思って、将吾は少し同情した。分かりたくもないが、この沼は深そうだと嫌でも予想がつく。
理事長の逮捕が発表される直前、三ツ藤と電話で話したと東堂から言われた。内容に踏み込むほど野暮ではなかったから、会話の中身までは聞いていないが、二人の関係が正式に終わったと、それだけを東堂から告げられた。あの時は単に自分の事情に巻き込んだ相手への事務的な報告だと思っていたが、東堂なりに過去を過去として前へ進もうとしてくれたのだと、今は分かる。そんな健気な一面まで見せられては、もうひとたまりもない。気づいた時には、もうとっくに引き返せなくなっていたのだ。
東堂の素肌はしっとりと熱を帯び、手に吸い付くようで、どれだけ味わっても足りなかった。邪魔に感じ始めたTシャツを脱がせて、自分も脱ぐ。素肌が合わさる感触に、ため息が出た。
そうっとベッドに横たえて、上から覆いかぶさるように覗き込む。もう、逃げ場のない体勢だけれど、東堂の顔には怯えも拒絶も見られない。代わりに、挑発するような眼差しで、艶然と将吾を見上げている。こちらの出方を楽しんでいるようにさえ見えて、その余裕が悔しかった。
「ッ、ふ……ぅぁ、」
その綺麗な顔を乱したくて、感じるところを探していく。女の子とは全く違う、薄くて硬い体なのに、むしゃぶりつきたくなるほどそそられる。皮膚の薄いところは感じやすいと聞いたことがある気がして、鎖骨の下、腋の下と舌を這わせる。その度に東堂は体を震わせ、熱い吐息をこぼした。
——ここ、も感じんのかな……。
胸の真ん中に、桜色に色づいた小さな突起。誘われるように、口に含んだ。
「や、ぁ、あッ……!」
今までとは明らかに違う、色を含んだ声。上目遣いに見上げれば、泣き出しそうに眉を寄せて薄く口を開いた東堂の顔があった。その凶悪なまでのエロさに、将吾の中の何かが弾け飛ぶ。舌で転がし、もう片方は指で撫でて、こねて、突いて。東堂は必死で声を堪えようとしているようだけれど、それでも堪えきれずに上がる声が甘くていやらしくて、将吾は夢中になった。
「小野、ッ……も、しつこいッ……」
とうとう泣きが入って、将吾がようやく我に返る。散々弄られてすっかり紅く硬く尖ったそこは濡れて光り、見てはいけないもののように淫猥な光景だった。
——あ。
ふと視線を下へ向けた時に視界に入った、ふっくらとした盛り上がり。東堂のそこはしっかり反応していた。どくん、と将吾の中で熱が脈打つ。
「こっちも……脱がせて、いい?」
腰に触れて、囁くように聞く。東堂が小さく頷くのを確認して、将吾はハーフパンツのゴムに手をかけた。触れただけでひくりと震えるそこを、下着ごとずるりと下ろして露わにする。
ゴクリ、と自分が唾を飲む音がやたら大きく響いた気がした。何も身につけていない姿になった東堂は、信じられないほど綺麗で、それでいて血が沸騰しそうなほど生々しいエロティックさがある。こんなものが、この世にはあるんだなと、意識の片隅で将吾は思った。
いよいよだ、と緊張する。
これまでにしたことのないこと。ベッドサイドに置いておいたローションを手に取り、東堂の腰の下にバスタオルを敷く。
足をそっと開かせれば、なめらかな陰影を描く太腿の奥にひっそりとそこが姿を現した。
なぜ、自分がこんなにも興奮を覚えるのか、もう将吾は理解することを諦めた。同じ男だとか、そういうことはもうとっくにどうでもよくなっている。自分と同じ体の構造だと頭では認識できても、体が、心が欲しいと騒ぐ。
傷をつけないように、慎重に指にローションをまとわせて、将吾はそこを拓きにかかった。
「ぁ……、ッふ、ん……」
——やべえ。これはマジで、やべえ。
おそらく今、自分は目がぎらついて、引くほど余裕のない顔をしているだろう。
東堂の中は熱く溶けていて、柔らかいのに、きつく将吾の指を締め付けた。ここに自分のものを入れることを想像しただけで、ぐうっと将吾の喉が低く鳴る。熱をまとった素肌から立ち上る東堂の匂いは紛れもなく雄のもので、それなのに将吾は身が総毛立つような興奮を覚えた。
早く、入れたい。けれど、東堂に負担を強いたくもない。東堂の漏らす声に煽られながらも将吾は辛抱強く、丹念に、小さな窄まりをほぐした。
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