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星空の下での決意⑨

そんなキャンプの日の出来事からかれこれ二カ月ほど経ってしまっていた。律仁さんはすぐじゃなくていいと言っていたし、その後会う機会があっても、彼からこの件に関して触れてくることはなかった。 とはいえ来週は交際一年目の記念日。今の自分の意志くらい。 伝えた方が彼の為でもあるような気がした。  この二カ月考えた結果、渉太としては幾ら律仁さんのお願いでも自分に明確な理由を持たない限り、海外に一緒に着いて行くことはできないと結論に至ったからだ。 「花井さん。花井さんは恋人いる?」  御客さんのいない夜のコンビニ。渉太はモップのハンドルの先端に顎を乗せてレジに立つ花井さんに問う。 「いるけど……」  花井さんは怪訝な顔で首を傾げながら答えてくれた。 普段は他人の事情に深く詮索することはない。 不躾な質問だと自覚はあったが、訊かずにはいられなかった。 「もしその恋人に海外に留学するから着いてきてって言われたら花井さんはどうする?」  心で決まっている答えでも、本当にそれが正解なのか自信がない。純粋に第三者の意見が聞きたかった。 「うーん……」  腕を組んで右手を頬に当てながら深く考え込んでいる。恋人が海外に行くなんて早々にある話ではない。少しばかし難しい質問すぎたかもしれない……。 「着いて行くかな。私も英語が喋れるわけじゃないけど、もちろん好きな人と一緒にいたいし、私も行くことで可能性が広げられるならそれも有りでいいかなって。ほらパリだとか芸術の街でしょ?私美術館職員目指しててさ、海外の美術館も面白そうだなって。卒業旅行で行く予定なんだよね」  やはり花井さんは、日頃の勤務態度から真面目だし、後輩バイトに慕われるくらい面倒見もいい。ちゃんと自分を持っている。そして行動力と柔軟的な考えを持っているから、きっと彼女なら如何なる状況でも渉太のようにうじうじと悩むことはないのだろう。  

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