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別人に入れ替わってる!?③

「生前、君と俺は番契約をしていたけれど、どうやら契約が解除されてしまっているようだね」 項に触れられて肩が跳ねる。俺とダリウスが番だったという事実にも驚きだけど、それよりも聞き捨てならない台詞が聞こえた気がして焦る。 「今お前、生前って言ったか!?」 「言ったかもしれないね」 「俺、じゃなくてクリスって死んだのか?」 尋ねてからすぐに後悔した。ダリウスの瞳に悲しそうな色が宿った気がしたからだ。そんな顔をされてしまうとなぜだか胸が傷む。無意識に頬に手を伸ばすと、ダリウスが嬉しそうに目を細めてくれた。 「君は生きているだろう?」 「……俺はクリスじゃない」 「それはどうかな。さて、本題に戻そうか。俺と結婚しようクリス」 「まだ言ってんのかよ!?」 なんだか不穏な雰囲気だったはずなのに、ダリウスの一言ですべてが飛散する。 「だーかーらー、俺たちは男同士だろ!結婚なんて出来ないって!」 「子供は何人欲しい?」 「話聞けよー!」 クスクスと楽しそうに笑うダリウスを睨みつける。ムカつくくらい顔が整ってるのがムカつく。 「説明しただろう。俺はαで君はΩだ。Ωは男でも子供を産むことの出来る特殊体質だからね。なにより、国の法で同性婚も認められているよ」 待ってくれよ。そんなことあるのか?妊娠?同性婚? 日本で暮らしていた頃、欲しくても手に入らなかった全てが許されている世界。なんだよそれ。嬉しいのに悔しいような……悲しさにも似た感情が胸を占める。 「ようやく理解してくれたんだね。それじゃあ、俺と結婚……」 「するかボケ!」 それとこれとは話が別だ。そもそも俺はこいつのことなんも知らないし。 クリスはこいつと親しかったんだよな……。 でも、死んじまったのか? ダリウスの顔を見つめながら考える。どうして俺はクリスの身体に入り込んだんだろう。 「運命の番のはずなのに、拒否されてしまうと悲しいな」 「運命の番と普通の番って違うのか?」 「奇跡的な確率で魂の相性が完璧な者同士のことを運命の番というんだ。出会った瞬間にわかると言われているんだよ」 「じゃあ、クリスとダリウスは運命の番だったってことか?」 「俺とは運命の番じゃないよ」 どういうことだ?話せば話すほどに疑問が浮かんでくる。でも、ここでずっと話していても拉致があかないから、とにかく部屋から出ないといけない気がする。 「外に行きたいんだけど」 「……許可できないな」 眉を寄せたダリウスが却下する。柔らかく聞こえていた声が、どことなく硬く聞こえた気がした。 「なんでお前が決めるんだよ」 ついツッコミを入れてしまう。確かに俺がいるのはダリウスの屋敷なのかもしれないけど、そんなのは関係ない。外に行くのもどうするのも俺の勝手だ。しおらしく言うことを聞くほど臆病でもないしな。 「クリスは俺の運命の番だから」 「運命の番っていっても恋人や夫ではないんだろ。だったら行動を制限されるいわれはない」 「クリスと俺は恋人だったんだよ」 それは初耳だ。でもそれってのことじゃないだろ。 「俺はクリスじゃないって説明しただろ。とにかく俺は外に行きたいの!よく分からない世界に突然来て戸惑ってんだよ。外の状況くらい自分の目で見てもいいだろ」 「頑固なところはそっくりだね。……なら、俺から決して離れないと約束してくれないかい」 真剣な瞳が訴えかけてくる。そんな目で見られてしまうと嫌だともいえずに、渋々頷いた。安心したように笑みを浮かべるダリウスを見つめる。 こいつがなにを考えているのかわからない。どこの誰なのかも知らないから気を許すことは出来ないけど、クリスの恋人だったのなら信用してもいいのかもしれないとは思っている。

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