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冒険者って憧れるよな①
動きやすそうな服と目まで隠れるタイプのフード付きマントを貸して貰って着替え終えると、一緒に街へ向かうことにした。マントは要らないって言ったんだけど、着ていかないとダメだと言われてしまったから仕方なく着ている。
着替えのときに鏡で自分の姿を見てみたら、すっごい美人でびっくりした。瞳はペリドットみたいな淡い緑色で、銀髪の長い髪はダリウスが無造作に後ろで結んでくれた。
鍛えていたのか筋肉はあるけど、細身でスラットしている。背は百七十センチ前後って所かな。モデルにでもなった気分だ。
こんなに綺麗ならダリウスが好きになるのもなんとなくわかる気がする。
ダリウスの説明では、屋敷が建っているのは都心のど真ん中辺りらしく、ここら辺では一番発展している街なのだとか。
「わー……ゲームの世界みたいだな」
「げーむ?」
「俺が居た世界にあった玩具 のことだよ」
西洋風の街並みを歩きながら感嘆の声を上げる。魔法なのか、ひとりでに動くジョウロが植木鉢に水をやっていたり、角が四本生えた牛みたいな生き物が荷馬車を運んでいたりと、珍しいものばかりが視界に映り込む。
(本当に俺は知らない世界に来たんだな……)
意識を色んなところに向けながら歩いていると、人にぶつかりかけて衝撃に備える。でも、ギリギリのところでダリウスが身体を引き寄せてくれてぶつからずにすんだ。
「ありがとな」
「はしゃいでいる君はとても可愛らしいけれど、怪我をしては元も子もないよ」
「か、可愛くなんてねーし!」
言い返すけど微笑ましそうに見つめられるだけで、一層恥ずかしくなっただけだった。こいつといると調子が狂うから嫌だ。
「ダリウス様だぞ。顔を見たのは十年ぶりくらいか」
「本当だわ」
時々、街人が俺達のことを見ながらなにか話しているのが聞こえてくる。コソコソと噂されるのはあまりいい気分はしない。ダリウスはあまり気にしてないみたいだけど。
「なあ、どこに行くんだ」
「古い知り合いのところだよ」
「ふーん」
土地勘なんてないから後をついて行くことしかできない。大通りを抜けて、狭い路地に入ると、二回ほど角を曲がって辿り着いたのはこじんまりとした小さな家だった。
木でできた扉に着いているドアノッカーを三回打ち付ける。そうしたら数秒後に、扉が開いて中からダリウスと同じ歳くらいの男が出てきた。黒くて長い前髪は少し暗い印象を与えてくる。髪に隠れた瞳は血みたいに赤くて、肌は不健康な程に白い。
「……何年ぶりかな」
真紅の瞳が俺とダリウスのことを交互に一瞥する。
「やぁ、リアム。約十年ってとこかな」
「長かったね。入りなよ」
素直に中に入る。薬草や実験用の瓶、本が大量に置かれた室内はやけに窮屈だ。魔法陣の描かれた紙が壁に沢山貼られていて、見ているとなんだかワクワクしてくる。
「彼の様子を見るに、儀式の成功は半々ってとこだったんだね」
「儀式?」
なんのことかわからなくて首を傾げる。部屋に描かれていた魔法陣となにか関係があるのか?
「そのことで相談があるんだよ。どうやら彼はクリスではないらしい」
「だろうね。魔力の質が違う。魔力の質は魂と直結している。間違いなく彼はクリスではない。番契約も解けてしまっているようだしね」
リアムが俺の項を一瞥しながら言う。
「記憶がないのもそのせいかい?」
「魂の記憶はその人だけのものだからね。ただ、身体はクリスのものだから思い出そうと思えば断片くらいは思い出せるかもしれない」
黙って二人の話を聞きながら、疑問が浮かんでくる。前世の俺は既に死んでいて魂だけがクリスの身体に入っている状態。だとするならクリスの魂はどこに行ったんだろうか。どうして俺はクリスの身体に入ったんだ?
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