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俺の名前は……②
基本的に、リアムは家に引きこもって魔法実験をしてるらしい。S級の大魔導師らしいんだけど、イマイチピンと来ないのは引きこもり生活ばかりしていて、戦っている所を見たことがないからかもしれない。
「やっぱわかっちゃう?」
「わかっちゃうね」
わざとらしい口調で返されて苦笑いを浮かべてしまう。
「ダリウスと喧嘩してさ」
未だに掲示板を眺めているダリウスへと視線を移す。俺はあいつがなにを考えてるかなんてこれっぽっちもわかんない。
わかるのは過去になにか大きな事件があって、大切な人 を亡くしたということだけ。
もっとあいつのことを知れたなら、この心のモヤも晴れるのか?
喧嘩しなくてもすむのかな。
「丁度良かった。二人に依頼をお願いするよ」
「なにが丁度いいんだよ。てか、リアムは強いんだし自分で行けばいいだろ」
「ギルド直々に周辺地域の調査依頼を任されているんだよ。最近モンスターの動きがおかしくなっていてね。冒険者の負傷率も上がってきているんだ」
「そうなんだな。ならその依頼受けるよ」
気軽に返事をすると、掲示板を見ていたダリウスがこちらへと歩いてきた。
「内容も聞かずに受けるのは駄目だよ」
「べつにいいだろ」
ついぶっきらぼうな返事をしてしまう。ポーカーフェイスのダリウスの眉が微かに垂れたのがわかった。些細な表情の変化にすらこんなにも一喜一憂してしまう。
「難しいものじゃない。魔素石を取ってきて欲しいんだ。西に真っ直ぐ進んでいくと洞窟がある。そこは僕が魔素石の採掘に使っている場所で、安全も確認済みだよ。お願いできるかな」
「魔素石?」
「魔力を込めることで、石に魔法を閉じ込めることができる石のことだよ。魔力のない人でも魔素石を使えば魔法を扱うことができるんだ」
リアムが説明してくれて、どんなものか理解した。ファンタジーアニメとかで出てくる、魔法アイテムみたいな物なのかな。
「……わかった」
ダリウスが了承してくれたから、リアムの依頼を受けることに決まった。
「それじゃ、正式にギルドに依頼を出しておくから帰ってきたら受付に魔素石は渡して置いてね。気をつけて」
言いながら、リアムはギルドの奥の部屋に消えていった。俺とダリウスも物資を確認して出発する。調子も戻ってきたから大丈夫そうだ。
地図を見ながら、場所を把握する。ダリウスも一度行ったことのある場所みたいだから、迷うことはなさそうだ。
(……気まずい)
必要事項を確認して進み始めたのはいいものの、出発してから数十分無言がつづいている。今日はエドから貰った装備も着けてきているから、余計お互いの間に嫌な空気が流れている気がしていた。
でも、折角貰った装備を着けないのも勿体ないしな。
「グギャア!」
「ゴブリンだっ!」
まだ森の中に足を踏み入れていないのに、数体のゴブリンと出くわして驚く。街までは少し遠いけど、こんな所でゴブリンと遭遇するなんて初めてのことだった。
「森から出てきたようだね。珍しいこともあるものだ」
ようやくダリウスが口を開いたことに安堵する。こんな会話なのは少し嫌だけど。
「ゴブリンは本来臆病な質で、仲間と群れて森の中に隠れひっそり獲物を狙う。こんな見晴らしのいい場所にはあまり近寄らないのだけどね」
言いながら五匹いるうちの一匹を簡単に倒してしまう。それを見習って俺も近くにいたゴブリンに向かって踏み込んだ。
「駄目だっ!無茶をしたらいけないっ」
この世界に来て気づいたことがある。
「平気だよ!」
何度も依頼をこなしている間に、モンスターとも会う機会はあった。もちろんダリウスが全部倒していたけど、それを見ながら思ったんだよ。簡単に倒せそうだなって。
ダリウスが簡単に倒してるからそう思うんじゃない。
相手の動きが手に取るようにわかるんだ。どう避けたらいいのか、どこを狙えばいいのかも。
俺の能力の基礎値が高いのはクリスの身体だからだ。つまり、騎士団長だったクリスの体なら戦えるはずだ。
斧を振り降ろしてくるゴブリンの攻撃を避けて、懐へと潜り込む。そうして、思いっきり剣を横に振った。
「ギャアアアア!」
叫び声が響き、ゴブリンが動かなくなる。それを見つめながら、初めてモンスターを倒せた喜びに心が震える。
「よっしゃっ……っ!」
喜びもつかの間、酷い頭痛が襲ってくる。脳内に、映像が浮かんでは消え、流れていく。
誰かが叫んでいた。眩しい程の銀髪を血や砂埃で汚し、必死に「逃げろ」と叫んでいる。迫ってくるなにかに力強く剣を振るうその人は……
「大丈夫かい!?」
意識が持っていかれそうになった瞬間、肩を強く揺すられて正気を取り戻した。目の前には必死な形相のダリウスがいて、その後ろには絶命したゴブリンの群れが横たわっている。
「だ、だいじょうぶ……」
「っ……よかった……」
心底安堵したような表情を浮かべるダリウスを凝視する。ダリウスの手が、俺の背に回されそうになったのがわかったのに、実際に抱きしめられることはなかった。
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