20 / 59

俺の名前は……①

きついことを言ってしまったから、ダリウスと顔を合わせるのは正直気まずかった。けど、ダリウスは何事もなかったかのようにいつも通りの態度で接してくる。違いがあるとするなら、あまり俺に触れてこなくなったこととクリスって呼ばなくなったことくらいだ。 「なあ、この間のことだけどさ」 勇気を振り絞って話しかけてみる。 喧嘩したままは嫌だから。 「言いたいことはわかっているから。大丈夫」 「いやっ、ちょっ……」 食事が終わったあとに、この間のことについて話題を振ってみたら見事に避けられてしまった。俺を置いて先に食器を片しに行くダリウス。いつもなら俺の分も片そうとする上に、ご飯を手ずから食べさせようとしてくるくらい甘やかそうとしてくるのに。 「ギルド行こうぜ」 ため息を吐き出したいのを我慢しつつ、駄目だと言われるのを覚悟で提案する。 「……そうだね」 やっぱり変だ。 いつもはギルドのギの字でも出そうものなら、めちゃくちゃ心配して渋るくせに、今日はすんなりとギルドに行くことを許容してくれた。こんなダリウス初めてだ。 そもそも、普段が過保護すぎるんだけど。その超過保護生活に慣れてしまっているせいか違和感しか感じない。 ギルドに着くと、どんな依頼があるかを確認していく。ちなみに、ダリウスとちょこちょこ依頼をこなしていたおかげもあって、この間F級からE級に昇格していた。 ステータスも昇格したときに確認してみたけど、他の人のステータスを見たことがなかったから比べようもなくて、自分が強いのか弱いのかもわからなかった。 ただ、アリスちゃんは能力値の基礎がすごく高いって褒めてくれたっけな。 基礎値が高い理由は、多分クリスが強かったからなんだと思う。 「どの依頼がいいと思う?」 掲示板の前でダリウスと並んで依頼を探す。 「おっ!オーク討伐とかあるぜ。これとかどうよ」 最近、街周辺をうろつく個体が増えてきたオークを十匹討伐するという内容だ。受注はEランクから受けられるものの、モンスターとまともに戦ったことがない俺には難しい依頼だ。 それをわざとらしく指さしてみる。 「……いいんじゃないかな」 「っ……あー、……やっぱやめる」 ダリウスの生返事にため息が出そうになる。いつものダリウスなら全力で止めてきたはずだ。やっぱり喧嘩してからずっと様子がおかしい。 自分が酷いことを言ったのは自覚してる。ダリウスにとってクリスは凄く大切な人だって嫌でも知ってるから。 でも、俺だってダリウスの大切な人になれるはずだろ……。 「っ……」 モヤモヤしてたらまた視界が揺れた。最近調子が悪い。 「ちょっと座る」 一旦掲示板から離れて椅子に腰掛ける。 「なにかあったの?」 「うおっ、なんだリアムか」 背後から話しかけられて驚く。振り返ったらリアムが立っていた。久しぶりに会った気がするな。

ともだちにシェアしよう!