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お出かけしよう③
エドから再び手紙が来たのは三日が過ぎた頃だった。ジェイデンが届けに来てくれたけど、相変わらずダリウスと睨み合っていて、なだめるのが大変だった。
出かける予定の日時が書かれてあって、皆予定が合うみたいだったから、了承の返事を、エドに伝えて貰えるように、またジェイデンへとお願いした。
それからあっという間に予定の日が来てしまった。今日に近づくにつれて、ダリウスの機嫌が目に見えて悪くなっていったのは言うまでもない。
逆に俺はすごく楽しみで仕方なかった。
「久しぶりだな」
「やあ、久しぶりだね」
待ち合わせ場所である正門前に着くと、先に待っていたエドに挨拶をして握手を交わす。なぜか片腕に花束を抱えている。ジェイデンもエドの後ろに立っていた。
繋がった手をダリウスが引き離して、俺のことを自分の方に引き寄せてきた。
「相変わらずだね。S級冒険者とはいえ、子爵位を国から授けられているのだから、少しは礼儀正しく出来ないのかい?」
「要らないと拒否したのに勝手に屋敷と子爵位を与えてきたのそちらだろう」
「国に危険を及ぼす可能性のあったドラゴンを単独討伐した労をねぎらおうと、国王が報奨を与えたのだから拒否なんて出来ないだろう」
「くだらない」
ダリウスが子爵様なのも驚いたけれど、もっと驚いたのはドラゴンを討伐したという話の方だ。ダリウスって本当に強いんだな。
「ダリウスって凄いんだな!ドラゴンってどんなだった?強いのか?やっぱり大きいんだろうなー!火とか吹くのか?」
興奮して捲し立てると、ダリウスの動きが止まった。光のない瞳が向けられる。
「ごめん。その話はしたくないんだ」
あまりにも冷たい声で話を止められて言葉を詰まらせた。ダリウスがこんな風に強い口調で俺になにかを言ってきたことなんてなかったから、頭の中が真っ白になってしまってどうしたらいいかわからなくなる。
ダリウスはそのまま俺に背を向けて歩き始めてしまう。
追いかけることも出来ずに放心していると、肩に誰かが手を置いてきた感覚がして振り返る。エドだ。
「大丈夫だよ」
囁くように言われて、ますます心臓が苦しくなった。
ダリウスが耳に下げている牙の形のピアスがやけに目につくのはなんでだろう。こういう時の勘ってよく当たる。
(クリスと関係ある話なんだ)
拳を握りしめて、心を落ち着かせるために深呼吸した。
先程のダリウスの態度がグルグルと頭の中を回っている。気まずい雰囲気のまま、正門を皆で出ていく。
「今日の目的地ってどこなんだ?」
ダリウスに話しかけることは出来そうにないからエドに尋ねる。
「着いてからのお楽しみだよ」
「え〜!めっちゃ気になる」
わざとらしく明るく振る舞う。辛い気持ちなんて忘れて楽しみたいからだ。
ダリウスがクリスのことばかり考えているのはいつもの事だし、今更傷ついたりしない。でも、冷たい態度を取られたことは流石に傷ついてしまっていた。
「ジェイデンは騎士団長なんだろ」
「そうだぜ。まあ、俺にはあんまり向いてないんだけどな」
「そんなことないと思うぜ。ジェイデンは良い奴だし。そうだ、今度騎士団の訓練見に行ってもいいかな」
クリスは騎士団長だったし、馴染み深い所に行けば記憶も思い出せるかもしれない。ダリウスに聞くことは出来なさそうだし、エドもジェイデンも話題に出さないように極力避けているように感じる。それなら、記憶を取り戻すのが一番早い。
もしも思い出せたとして、記憶の中にダリウスの痛みや苦しみを取り除くためのヒントがあるなら、知りたいんだ。
「かまわないぜ」
「ありがとな」
大事なやつが悲しそうな顔してるのは、自分が傷つくよりももっと辛い。だから、俺がクヨクヨしてたって仕方ないよな。
(勇気を出さなきゃ)
一番前を一人で歩くダリウスに駆け寄ると、じゃれつくみたいに後ろから抱きつく。そうしたら、困惑した表情を浮かべながら顔をこちらへと向けてくれる。
この困り顔を見ると少し安心するんだよな。
「歩くの早いぞ」
「……ごめんね」
穏やかな声だ。頭を優しく撫でてくれるのが気持ちよくて目を細める。きっとこの謝罪には色んな意味が含まれているんだろうな。
「いいよ。その代わり俺の隣にいること!」
満面の笑みを浮かべながら、隣に並ぶ。そんな俺のことを横目に見ながら、口元に薄く笑みを浮かべてくれる。
「私も仲間に入れて欲しいな」
「皆で並んでいこうぜ」
エドとジェイデンも隣に来てくれて、四人並んで道を進む。穏やかに会話を楽しみながら、目的地を目指す。
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