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お出かけしよう⑤

ダリウスの方を見ると、小さく頷き返してくれた。それを了承だと受け取ると、しっかりと顔を上げて言葉を発する。 「俺の身体はクリスのものなんだ」 「それはどういうことだい?」 「魂を呼び戻す儀式をダリウスが行って、その時に抜け殻になったクリスの身体にさまよっていた俺の魂が引き寄せられて入ってしまったんだ。どうして俺だったのかは分からない。ダリウスと俺が魂で繋がった運命の番だからなのかも……」 「……嘘はついていないようだね。そうか……だから姿形が彼と瓜二つなのか……」 まだ話の内容を飲み込めていない様子だ。でも、否定はされなかったことに安堵する。この身体に入ってからもうすぐ一ヶ月が経つ。 未だに俺ですら現状についていけないときがあるんだから、エドが戸惑うのも無理はない。 「本当にクリスなのか?」 ジェイデンがふらふらと近づいてきて、確かめるように見つめてくる。 「中身は別人だ」 「っ、それでも……クリスなんだろ?」 「うん」 今だけはクリスじゃないっていう言葉は封印しよう。 この世界で過ごす時間が長くなる程に、クリスがどれだけ周りの人に影響を与えているのかが、身に染みてわかっていく。 こんな状態じゃなくて、俺もクリスも生きて出会えていたなら、俺だってきっとクリスのことを好きになったはずだ。 「クリスは死んでしまったのかもしれない。でも、これからはさ、俺がクリスの分も生き抜いていく。だから、二人には俺とクリスのことを見守っていて欲しいんだ」 二人に向かって両手を差し出すと、手を握り返してくれる。 「見届けるよ。友として君に困難が立ちはだかったときはいつだって手を貸す」 「へへ、サンキューな」 王太子であるエドの言葉は頼りになる。本当に困難が降り掛かってきても、きっと彼は一緒に悩んで解決への道を示してくれるはずだ。 「飲みに行くぞ。絶対だからな」 「あはは、そればっかじゃねーか。いつでも大歓迎だぜ」 幼馴染で相棒だったジェイデン。クリスが最も信頼していた彼を俺も信頼している。きっと彼は人生で一番の友になるんだろうな。 握手の手が解けると、ダリウスが頑張ったっていうみたいに肩に手を添えてくれた。まるで褒められているように感じられて嬉しくなる。 花束に近づくと、俺も手を合わせてクリスに誓いを立てる。 (お前が守ったものを俺も大切にする) 俺とはクリスは違う人間だ。だから、彼のような聖人君子にはなれないけど、自分なりのやり方で皆と過ごしていこうと思う。 街に戻ると二人と別れて、ダリウスと一緒に屋敷までの道を進んでいく。 「ダリウスはクリスのこと好きか?」 聞くことは一生ないと思っていた質問。 答えなんてわかりきっているのに、聞かずにはいられなかった。 「好きだよ」 「だよな……」 自分で聞いたくせにダメージを受けてしまっている。馬鹿だよな。 「でも、形は変わってしまったよ」 「……形?」 「俺は確かにクリスのことが好きだ。大切で忘れられない存在。でもね、愛しているのはツバサだけよ。クリスへの好きと君への愛はまったく違う形だ。君はクリスではないから、比べる必要なんてないんだよ」 俺の前にかしずいたダリウスが、手を取り、甲へと口付けを落としてきた。その行為を受け入れながら、彼の思いをしっかりと身に刻む。 ダリウスとクリスの間にどんな過去があったのかは知らない。ダリウスが話してもいいって思ってくれるときに話してくれればいいとも思う。 俺もできる限り、記憶の断片を辿っていけたらいい。 「帰ったら甘えてもいいか」 「毎日でも甘えて欲しいな。ついでに結婚してしまおうか」 「しないし、結婚はついででするものじゃない」 さっきまで格好よかったのに、すぐこんなことを言い出すんだから呆れてしまう。イケメンの無駄遣いじゃないのか。 苦笑いを零しつつ、ダリウスの手に指を絡めて歩き出す。 「早く帰ろうぜ」 いつの間にかダリウスの隣に居るのが当たり前になっている。それが嬉しいと思うこの心を大事にしたい。

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