58 / 59

挨拶回り③

朝日が登り始める頃、ふと目を覚ました。 隣を見るとダリウスの姿が見当たらない。起き上がると、屋敷内をあてもなくさまよう。けれど、執務室やリビングにもダリウスが居る気配はなかった。 多分外出しているのだろう。 ふと、一箇所だけ心当たりのある場所が浮かぶ。 (そういえばダークナイトドラゴンのことを報告していない人がもう一人居たよな) 寝間着から冒険者用の装備に着替えると、いつも使う剣や道具だけ持って屋敷を飛び出した。 太陽が少しずつ顔を出してきている。その光に照らされながら、坑道を駆け続けた。日が完全に忘れ上り切る頃に、ようやく目的の場所に辿り着いた。 大通りの脇に大量の花束が飾られた場所。ダリウスがその目の前に佇み花束をじっと見つめていた。 「ダリウス」 声をかけると、彼が俺の方を見て無表情が緩む。近寄ると、俺の手を取ったダリウスが笑みを浮かべた。 「本当はこんな場所ではなくて、きちんと墓を建ててあげるべきだったんだ。でも、俺がクリスの身体を屋敷へと持って帰ったからできなかった」 「……後悔してんのか?」 「きっとこれを言うとクリスに怒られてしまうかもしれないけれど……後悔はしていないよ。ツバサと出会えたからね」 俺も自分の選択に後悔なんてしていない。ダリウスも同じ気持ちだってわかって嬉しい。 「それにしても、よく俺の居場所がわかったね」 「そりゃあ、俺とお前は運命の番だからな」 上手いことを言ってみたけど、ただの勘だ。 「あとさ、大切な友人にダークナイトドラゴンを討伐したことを伝えてなかったからさ」 クリスは命懸けで皆を守った。そして、俺とダリウスも命懸けでクリスの思いに応えたんだ。きっとそれはクリスにも伝わっているはずだ。 「クリス。俺はツバサとしての人生を全力で歩んでいく。だからもしも、お前が俺と同じように生まれ変わることがあったとしたら、その人生を自分らしく歩んで欲しい」 こんなこと言わなくてもクリスなら大丈夫だと思うけどさ。 「ダリウスには言ってなかったけど、この世界で目覚めたあの日、声が聞こえたんだよ。必死に震える声で、起きてくれって叫んでた。その声につられて俺は目を覚ましたんだ」 「……」 「魂が引き合わせてくれたんだと思う。ダリウス、俺はお前に出会えて最っっ高に幸せだよ」 繋いだ手から熱が伝わってくる。ダリウスの心がそのまま流れ込んできているみたいだ。空を見上げても見えないはずなのに、キラリと一等星が応えるように煌めいたのが見えた気がした。

ともだちにシェアしよう!