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未来を誓う【最終話】
白いタキシードとか沢山の花なんて性にあわない。
だから、必要最低限の飾りと海辺にある小さなチャペルで俺とダリウスは結婚式を挙げた。参列者はリアムとエドとジェイデン。
そして、クリスが愛用していた剣が置かれている。
「ダリウスはもっと派手なのが好きだと思ってたけどな」
ジェイデンが言うと、ダリウスが肩を竦めた。
「最高に可愛いツバサの姿を他人に見せたくなんてないからね。本当は君たちも呼びたくなかったところだ」
「お前は相変わらずだな」
ジェイデンが困り顔を浮かべる。エドと俺はやり取りを見ながら笑を零した。リアムはそんな俺たちのことを静かに見守ってくれている。風に吹かれてカタカタと剣も揺れる。まるでクリスも笑ってくれているみたいだ。
「そろそろ始めようか」
エドが真ん中に立ち、俺とダリウスは並びあってエドの方を向く。
お決まりの文言がスラスラとエドの口から流れる。飾られた真っ白な花々は日差しに照らされて輝いていた。
「病める時も健やかなる時も、お互いを愛し敬い命ある限り真心を尽くすと誓いますか?」
何千何万回とテレビや雑誌で聞いてきた言葉だ。自分には一生縁のない言葉だと思っていた。実際に自分が問われたらどんな気持ちになるんだろうと想像してみても、正直よくわからなかった。
でも、今はわかる。
「「誓います」」
俺とダリウスの言葉が重なる。
幸せで、胸がじんわりと温かくて、今にも泣いてしまいそう。皆こんな気持ちだったんだな。
きっと俺達は神に誓ったのではない、クリス。今この瞬間、俺達はお前に永遠の誓いを立てるよ。
「それでは誓いのキスを」
向かい合い、お互いに笑みを返す。手を取り合ってそっと触れるだけのキスをした。さざ波が鼓膜を揺らす。
唇が離れると、なんだか気恥ずかしくなってはにかむ。
俺達は今日友人たちが見守る中、正式に夫婦になったんだ。
「絶対幸せにしてやるからな!」
俺の言葉にダリウスが最高に甘い笑みを返してくれた。そうして、そっと抱きしめられる。大きな拍手を皆が贈ってくれる。
カランカランとベルが鳴り、風がもう一度吹くと、花弁が花吹雪となって会場へと降り注いだ。
「ご馳走を用意してるんだ。皆で食べようぜ!」
テーブル席が用意されている場所へ移動する。沢山の豪華な食事か並べられた席に皆で腰掛ける。もちろんメインメニューは兎肉。タンドリー風の味付けがしてある。
「今日は沢山食べて盛り上がってくれよな!」
「ふふ、ツバサも沢山お食べ」
口元にスープが運ばれる。やめろって言っても聞かないから、仕方なく口を開けて飲み込んだ。とろりとしたらポタージュ系のスープは口当たりが良くて美味しい。
「改めて二人ともおめでとう」
エドがシャンパンの入ったグラスを掲げる。それに習ってリアムとジェイデンもグラスを掲げる。
「へへ、ありがとうな」
「ありがとう」
珍しく素直にお礼を口にしたダリウスもグラスを手に持った。俺もグラスを持つ。
「二人の結婚を祝して乾杯~!」
子気味のいい音が響いて、いっせいにグラスの中身に口をつけた。こんなに美味しい酒なんて初めて味わったよ。
この瞬間に幸せが全部詰め込まれている。
明日になればまた、それぞれがやらなければいけない事に全力を尽くすんだろう。そうやって歩んだ先には、後悔も付き纏うのかもしれない。でも、きっと俺達なら乗り越えていける。
だって知っているから。
どんな逆境にも挫けない最高の男の背中を。
「よーし、食うぞ!」
肉にかぶりつくと、皆も食事を口に入れた。笑い声が響いている。
その声を耳に入れながら、俺は何度も笑を零した。
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