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出会い

 高校までは特にモテたわけでも、好きな人がいたわけでもなく、ただ平凡な毎日を送っているだけの学生だった。別にやりたいことがあったわけでもなく、親や担任に言われるまま大学へ行くことを選択し、何とか大学受験を乗り切って今に至る。そんな何の取柄もない|阪《さか》|井《い》|直《なお》|之《ゆき》は、未だにやりたい事を見つけることは出来ていないが、大学へ来る楽しみを見つけることは出来ていた。  初めてそいつに会ったのは、たまたまサークルの勧誘を断れずに連れていかれたキャンプ部の部室。訳も分からず腕を引かれるまま中へ入ると、そいつはすでに椅子に座っていて、部員の一人に説明を受けているところだった。前髪で目元が隠れているせいか、きちんと顔が見えないそいつの隣に座らせられると、また一から説明が始まる。それなのに、そいつは嫌なしぐさ一つ見せずに黙ってそれを聞いていた。  普通……怒るだろ? 同じ説明を二度も聞かせられるなんて……。  少なくとも自分だったら「ふざけるな!」って言いたくなる。  一通りの説明が終わると、「じゃあ、これに記入してもらえる?」と、入部届と書かれた用紙を目の前に差し出された。  まだ入部するなんて一言も言ってないし、ほぼ無理やり連れて来られたようなものなのに、いきなり入部届を書けと言われて書けるわけがない。 「俺、入部するなんて言ってないんですけど……」 「でも、ここにいて説明受けてたよね?」 「それはいきなり声掛けられてそのまま連れて来られたからで……」 「嫌だったら途中で出て行けたと思うけど?」 「それはっ、話の途中で出て行くのは違う気がして……」 「だったら興味がないわけじゃないってことだし、キャンプ楽しいから、絶対悪いようにはしない」 「そんなこと言われても、キャンプって……」 「年に二度ほどサークルで大きなイベントをする以外は、特に強制はしない。だから、頼む! 入ってくれ!」 「いや、ちょっと……」  神頼みでもするように手を合わせて頭を下げてくる姿に、どうしていいかわからずにいると、 「これでいいですか?」  と、記入した用紙をスッと差し出したのが、他でもない直之が大学へ来る楽しみを見つけた人物、|田《た》|丸《まる》|渉《わたる》だ。 「入ってくれんの?」 「まあ、何もしないよりはいいかなって思うので」 「お、おい。いいのかよ、お前……」 「僕は別にどっちでもいい。君は、嫌なら出て行けばいいんじゃない?」  声のトーンを一切変えないまま言い放たれた言葉が直之をイラッとさせる。  何なの、こいつ……。  第一印象は最悪だった。  それなのに…… 「じゃあ、俺も入部する。これに記入すればいいんですよね?」 「ああ……」  一度立ち上がった椅子に座り直すと、机に置かれている入部届の上に乗っているボールペンをカチッと押して先端を出し、直之は自分の名前を記入した。

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