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ペットボトル
出会いはどうであれ、同じサークルに入ったことでお互いの存在を知り、その後で学部も一緒だとわかり、気がつけば当たり前のように隣にいる存在になっていた。
どちらかといえば、来る者拒まず去る者追わずな直之と人見知りで物静かな渉とでは、性格が違い過ぎてつるんでいるのを不思議に思っている奴らもいるけれど、人が何を思っていようと関係ない。自分が居心地が良いと思えることが大切だと思うから。
「渉さ、いい加減に前髪切ったら?」
「別にこのままでいいし」
「切った方がモテるのに……」
そう言って、直之が渉の前髪を人差し指と中指で挟んで上げると、渉の顔がはっきりと映し出される。
思っていたよりもぱっちりとした目で、睫毛も長く鼻筋も通っていて、どこの誰が見ても男前の部類に入るはずなのに、渉はその顔を前髪を伸ばすことで隠してしまっていた。
「ちょっと……止めてよ」
髪を上げている手を軽く振り払うと、向かい合っていた顔がふいっとそっぽを向く。
でも、その頬がほんのり赤くなっているのを直之は見逃さない。
「まあ、こうやって俺だけが知ってる渉の顔も悪くないか……」
なんてスレスレの言葉を掛けながら頭をポンッと撫でると、並んで座っていた木陰の下で三角座りをしていた体を丸めて小さくしてしまう。
こういう反応がいちいち可愛くて、つい意地悪をしたくなる。
「もうすぐサークルのイベントあるけど、渉は参加だろ?」
「うん……」
「じゃあ、俺も参加だな」
「でも、直之は嫌なんじゃ……?」
「渉が行くなら、俺も行くって。どうせ、一人じゃつまんないだろ?」
「別にそんなことないけど……」
なんて言いながら、頬が緩んでいるのがしっかりと視界に入ってくる。
確信があるわけじゃない……けど、こんなしぐさを見ていると渉が直之に好意を持っているかもしれないと思ってしまう。
そしてそれに対して悪い気がしない直之は、試すように色々と仕掛けたくなるんだ。
「そうだ、キャンプ行く前に揃えといた方がいいものとかあるだろうし、週末付き合ってくんない?」
「僕はいいけど……」
「じゃあ決まり。駅前のカフェで待ち合わせしよ」
「わかった」
理由なんて何だっていい。ただ週末に会う口実が欲しいだけ。大学でバカみたいに一緒にいるのに外でも会いたいと思うのは、少なからず自分にとって渉が他の連中よりも特別だということなのだろう。
大学の最寄駅は、近くにしっかりと年齢層の店が賑わっていて、一通りのものが揃えられるようになっている。
最寄駅のすぐそばにあるカフェも、同じ大学の人たちの立ち寄り場みたいになっていて、二人もよく帰りに寄り道していく。
特に何を話すわけでもないのに、ソファ式になっている横並びの二人掛けの席に座って、直之はスマホを片手に背中をソファに預け、渉は膝の上に肘をつきながら小説を読むというスタイルだ。
そんな時間も嫌いじゃない。
講義が終わった誰もいなくなった教室で、二人並んで座りながら伏せている体を起こすと、直之は手の中にあるペットボトルの水を一口飲む。
「渉も飲む?」
蓋を閉める前にスッとペットボトルを差し出すと、そっと手が伸びてくる。
直之は、もう少しで渉の手がペットボトルを掴みそうなところで、それを自分の方へと引き戻した。
「ダーメ」
そう言って意地悪く笑うと、渉は伸ばした手をサッと引っ込めて頬を膨らませている。
前髪で目元は隠せても、顔全体が隠せているわけじゃないってことに気づいてる?
決して他の奴の前では見せない姿を自分だけに見せる渉が、同じ男なのに可愛くて堪らない。そう思っている自分はおかしいのだろうか?
そんなことを思っても誰かに聞けるわけもない。
「直之の意地悪……」
「怒った?」
「別に怒ってないけど……」
ちょっと棘のある言い方をして唇を尖らせている渉に向かって手を伸ばす。
頭にポンッと手を乗せると、「ゴメンな」と覗き込むように伝える。
「うん……」
一瞬で尖っていた唇が緩んでいき、恥ずかしそうに俯いていく顔を逃すまいと視界へと映り込む。
「もう……」
「だって、すぐ視線逸らすから」
「目を見て話すの苦手なんだってば……」
「知ってるよ」
「だったら……」
「んっ、わかった。じゃあ、そろそろ行こうか」
渉の頭に乗せていた手を離して、ペットボトルの蓋を閉めると直之は椅子から立ち上がり歩き出す。
その後ろを追いかけるように渉も立ち上がった。
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